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連載歴史・時代小説の歩き方

三国な戦士のテーゼ(1)――『三国志』冒頭読み比べ

2015/02/07

genre : エンタメ, 読書

「そのうちに読もうと思ってる小説ランキング」があれば確実に上位に入る『三国志』。熱烈なファンが多い一方で、未読の人にとってはなかなかハードルが高いよね。しかも大物作家がこぞって書いているので、どれから手を出せばいいのかわからないって話もよく聞く。そこで考えた。冒頭だけでも読み比べてみれば雰囲気の違いがわかるんじゃない?

 基本テキストは吉川英治『三国志(一)』(吉川英治歴史時代文庫)。これをベースに、北方謙三『三国志 一の巻 天狼の星』(ハルキ文庫)と宮城谷昌光『三国志 第一巻』(文春文庫)、そして残念ながら先月逝去された陳舜臣『秘本三国志(一)』(文春文庫)を比べてみる。ぜんぶ積んだら大変な冊数になるが、すべて電子書籍になっているので大丈夫だ。ちなみに私は吉川英治版を学生時代に読んだが、ほとんど忘却の彼方。むしろNHKの人形劇で紳助・竜介に教わった三国志の方が印象深いクチである。

 オリジナルの『三国志演義』は、黄巾の乱の話から始まる。後漢(当時の中国王朝ね)末期に起きた大規模な反乱のことで、メンバーの証に黄色い頭巾をしてたことから黄巾賊と呼ばれていた――って、めちゃくちゃスケールのでかいカラーギャングを想像しちゃったぞ。なんだか一気に『池袋ウエストゲートパーク』っぽくなった。洛陽ウエストゲートパーク。

 このカラーギャングを制圧する過程で、主人公の劉備とその側近である張飛・関羽が活躍するのが吉川英治版の第一巻。出だしはこうだ。

「後漢の建寧元年のころ。/今から約千七百八十年ほど前のことである。/一人の旅人があった」

 吉川版が書かれたのは戦時中なので、今からだと「約1850年ほど前」かな。この旅人が、まだ名もない田舎青年の劉備である。黄河をのんびり眺めながら「お母さんへのお土産にお茶を買って帰るんだ♪」という身近なところから話が始まるので、馴染みの薄い時代や国の話でもすんなり入れる。しかも一文が短く改行が多く、読みやすいことと言ったら。

三国志〈第1巻〉(文春文庫) 文庫

宮城谷 昌光 (著)

文藝春秋
2008年10月10日発売

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秘本三国志(一) (文春文庫) Kindle版

陳 舜臣(著)

文藝春秋
2003年01月20日発売

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