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「家族全員が私をバカにするような家でした……」41歳女性がひきこもりになるまで

『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)より

2019/11/22
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 中高年ひきこもりが想像以上に増えている。2018年の内閣府調査では、40歳から64歳までの中高年ひきこもりは61.3万人が存在するという衝撃的な推計値も出された。15~64歳までのひきこもりの全国推計の数は115万人なので、半数以上が40歳以上であることがわかる。もはやひきこもりは若年層特有の現象ではなく、中高年と「8050(ハチマルゴーマル)問題」に象徴されるような高齢者と家族の問題であることが明らかになってきた。

下流老人』などの著作で知られる藤田孝典氏の新著『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)から、当事者へのインタビューを一部転載する。

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香取由美さん(仮名・41歳・女性)の場合

家族構成:父(70代)、母(70代)、妹(39歳)
ひきこもりのきっかけ:場面緘黙(かんもく)症で、職場の人間関係に苦労した
ひきこもり期間:30歳から11年
現在の様子:
・ひとり暮らし
・家族からの虐待があり、家族との関係を断絶
・ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)に参加している

行政の就労支援は当事者に寄り添っていない

「もともと、家で虐待されていて、生きづらさを感じていました。精神科に通院したり就労支援機関に通ったりもしたんですが、支援機関で理不尽な扱いを受けて……。

 初めて就労支援機関に行ったのは、15年ほど前のことです。今とはまったく対応が違っていて、ひきこもり当事者一人ひとりに合わせて、各々の働き方に適した支援なんてしていませんでした。むしろ、当事者のほうが支援機関に合わせろ、という感じだったんです。

中高年ひきこもり―社会問題を背負わされた人たち―』 (扶桑社新書)

『1日8時間、週5回とフルタイムで、きちんと働きましょう』と、一般的な労働者と同様の就労を勧められて、ついていけなければ『根性が足りない』『やる気がないからだ』と責められました。そんな環境なので、責められる恐怖と、周りについていけない申し訳なさのような気持ちを常に感じながら、就労支援機関に通っていました。

 初めて行政の就労支援機関に行ったのは、23歳くらいのときです。正社員として働きたいと考えて、それが無理ならアルバイトとしてでも、と思っていたのですが、就労支援機関はあまり聞き入れてくれませんでした。もともと、私は大きな声を出せないのですが、それも理解されませんでしたね……。私自身、当時は自分が場面緘黙症であることを知らずに、なぜ声が出なくなってしまうのかわからずに苦しんでいました」

 香取さんは家庭内で虐待を受けていた。虐待は身体的な暴力に限らず、精神的なもの、ネグレクト(育児放棄・無関心)などを含む。親に相談したり、親と話すなかでストレスを解消することもできないため、精神疾患や心に不安定さを抱えるようになる。

 中高年になった現在も親との関係性が悪かったことをひきこもりの一因と語る当事者が多いのが印象的だ。幼少期に、親が子どもへの理解に欠けると大きなダメージを受けてしまうことがわかる事例だ。