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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

インドのヒッチコック

2019/11/24

 わたしが子供のころは、NHKのEテレはまだ教育テレビという名前で、週末の午後にモノクロの名作映画を放送していた。ヒッチコック監督のスリラー作品、面白かったなぁ! いい人だけど、弱さもずるさもちょっとあるという、ごく普通の主人公が、極悪人の罠にかかって二転三転。最後に危機を脱する……。知的だがわかりやすいプロットで、観ても観ても飽きなかった。「昔はよかった」が口癖のクソババアになっちゃいけないけど、ヒッチコックはこうして隙を見て勧めたいものです……。

 さて、この映画は、盲目という触れ込みの男性ピアニストが、稀代の悪女に命を狙われながらも、歌いまくり弾きまくる、インド版“歌うヒッチコック”なのだ!

 アーカーシュは盲目のピアニストとしてクラブで職を得たが、実は目が見えるのを隠している。ある日、往年の映画スターの邸宅で演奏する仕事を引き受けたところ、なんと、ピアノを弾く彼の目の前には映画スターの無残な他殺体が! 犯人が殺人の隠匿作業を進める中、アーカーシュはあくまでも見えていないふりで演奏し続け、怯えきって帰宅する。だが犯人もアーカーシュの秘密に気づいてしまい……。

©Viacom 18 Motion Pictures ©Eros international all rights reserved

 物語は恐い方向に転がり続け、十分に一回は心臓がひっくり返る。シーンに合わせて音楽も焦燥感を増し、いやが上にも盛りあがる。

 嘘はつけるが人は殺せないという、主人公の良心の塩梅がまたいい。アーカーシュが実行した悪事は、その罪と同等の悪い結果をもたらすのだが、もっと大きな悪の誘惑に負けなかったことも、彼の運命に福音をもたらす。この古き良き“因果応報”のストーリー展開こそ、まさに“インドのヒッチコック”の面目躍如だと思う。

 主演のスター俳優による吹き替えなしのピアノ演奏も、聞き応え十分。物語も音楽もじっくり楽しめます。

INFORMATION

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』
新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
http://m-melody.jp/

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