文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

高見泰地七段 VS 千田翔太七段 「AI将棋の申し子」が時折見せるあまりに人間的な姿

高見泰地七段 VS 千田翔太七段 「AI将棋の申し子」が時折見せるあまりに人間的な姿

第5期叡王戦本戦トーナメント観戦レポート

2019/11/30
note

 11月24日。天気は曇り。11月も末だというのに湿度が高く空気も生ぬるい。

 東京・将棋会館5階、香雲の間。

 この日行われたのは永瀬拓矢叡王への挑戦をかけた、第5期叡王戦本戦トーナメント1回戦。

ADVERTISEMENT

高見泰地七段(左)と千田翔太七段(右)。これまでの対戦成績は、千田七段の3勝1敗。叡王戦では棋士の序列に関わらず、下座に先手、上座に後手の棋士が着座する

 上座に座るのは後手・高見泰地七段。下座に座るのは先手・千田翔太七段。

 互いに20代、新時代の棋士である。

奪われたものをまた取り返す

 高見七段といえば、軽快なトークと、自らも称する「プロの観る将」目線からのファンサービス、親しみやすい柔らかい性格、そして何より「妖術」と呼ばれるその勝負師の棋風で人気を誇る棋士だ。

 その妖術によって大逆転を呼び込み、名勝負を繰り広げ、第3期叡王戦では金井恒太六段との番勝負の末に初代叡王に輝き、初タイトルを戴冠した。その棋風とキャラクターのギャップに魅了されたファンは少なくないはずだ。そして第4期では惜しくも永瀬七段に叡王を奪取されてしまった。奪われたものをまた取り返す。本局への意気込みも相当なものだろう。今回は前叡王として予選免除となり本戦出場となった。

 一方の千田七段は、叡王戦と同じくドワンゴが主催したプロ棋士 vs AIの「電王戦」でCOM側の棋士として「ヒール役」を演じ、「AI時代の申し子」の異名を取った超AIフォロアーな棋士である。その徹底ぶりはすさまじく、現在は人間の棋譜ではなくAI同士の棋譜を並べているという。

高見七段の指

トレードマークの赤色のネクタイを身に着け

「強くなるまでに人間の棋譜とかをたくさん学習してしまうと悪い感覚が身につく」とばっさり斬ってしまうド直球ぶりに驚く人も少なくないが、2016年度には棋王戦に初挑戦、今期も順位戦ではA級昇級を狙える成績を出しており、レーティングも常に上位トップ10。着実に結果を残してその持論を証明している実力者である。今回は伊藤博文七段、畠山鎮七段、北島忠雄七段、阿部健治郎七段を破り、七段予選トーナメントCブロックを通過して本戦出場となった。

 まず目に入るのは二人のその対照的な姿だろう。高見七段は淡い水色のネクタイを身に着け、盤前に扇子と時計を置き、脇息の後ろには鞄を置いている。千田七段はトレードマークの赤色のネクタイを身に着け、盤前には何も置いていない。盤側にも長財布がぽんと置かれているだけだ。指し手を進める指も、高見七段が丸くやわらかい指なのに対し、千田七段は血管が浮き出るほど細く筋張っている。