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連載歴史・時代小説の歩き方

2015/12/05

genre : エンタメ, 読書

江戸市井物の系譜をつないだ「伊三次」

 市井人情物の時代小説が隆盛を誇る今からでは想像できないくらい、昔は女性の書き手がいなかった。歴史小説の分野には永井路子や杉本苑子がいたが、こと市井もの、特にシリーズとなると、藤沢周平や山本周五郎といった男性作家が中心。女性作家はと言えば、80年代までは平岩弓枝が孤軍奮闘していたと言っていい。

 80年代も終盤になって、北原亞以子が『深川澪通り木戸番小屋』を出した。91年には、すでにミステリで若い読者をつかまえていた宮部みゆきが『本所深川ふしぎ草紙』を出して時代小説の間口を広げた。そして95年、宇江佐真理が登場する。しかも「髪結い」という職業を前面に出した。後に花開く「江戸お仕事小説」ジャンルの走りでもあったのだ。

 女性作家による江戸市井もののシリーズが一気に盛り上がったのは2001年だ。杉本章子「信太郎人情始末帖」シリーズ。諸田玲子の「お鳥見女房」シリーズと「あくじゃれ瓢六」シリーズ。畠中恵の「しゃばけ」シリーズ。すべて2001年のスタートである。2010年代になると、高田郁『みをつくし料理帖』をきっかけに、女性が書く「お仕事もの」が増えた。今、女性時代小説家は百花繚乱だ。

 それは、平岩弓枝が切り開き、北原亞以子と宮部みゆきが地均しをし、そして宇江佐真理が広げた道なのだ。現代にも通じる女性の問題が、柔らかに細やかに描かれた、地域や家族のロングスパンのシリーズ。そのジャンルを確立したのは、彼女たちだ。その先駆者たちの中で、北原亞以子と宇江佐真理の訃報を続けて聞くことになったのは、実に残念でならない。

 けれど、彼女たちの後継者が、今日も書店の棚を賑わせている。宇江佐真理の広げた道を、あさのあつこが、西條奈加が、朝井まかてが、多くの女性作家たちが、さらにどんどん広げている。これは、伊三次と同じくらい大きな、宇江佐真理の遺産なのである。

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