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2019/12/11

 京都アニメーションがこのように実力をつけていく過程は、時代的に見てもとてもよいタイミングだった。アニメ業界は、1990年代末からTVアニメのハイクオリティ化が始まっており、それまでのTVアニメではできなかった凝った表現がどんどん挑戦されるようになっていた。これは深夜にアニメ枠が開拓されて、「DVDなどパッケージソフトを買ってもらうためのアニメ」がたくさん放送されるようになったこととも深い関係がある。そして京都アニメーションはその状況に見事に対応し、むしろそれをリードしていった。

作品の魅力を支える3つの秘密

『ハルヒ』を経て、さらに映像の洗練度が増していく京都アニメーションだが、そのポイントは大きく3つある。

 まずひとつは正確な空間感で描かれたレイアウト(画面構成)。正確に描かれた空間の中にキャラクターを適切に配置すると、背景が“書き割り”にならず、その空間にもキャラクターにも存在感が生まれる。また京都アニメーションは実際の風景をロケハンし、その風景を作中に落とし込むことも多く、それも存在感が増す理由のひとつになっている。

 もうひとつは小物を含めた細部へのこだわり。アニメの場合、手間が増えるため線が多いデザインは避けられることが多い。しかし、京都アニメーションでは髪の毛のおくれ毛などの繊細な表現や、非常に正確に描かれた楽器など、細部をおろそかにしない。それによって描かれたものの存在感が増している。

『氷菓』販売元:KADOKAWA 角川書店

 そして最後は、カメラで撮影したような画調(ルック)。アニメであるにもかかわらず、「被写界深度が浅く背景が大きくボケている画面」を作ったり、「質の良くないレンズで撮影したような色収差や画面端の歪み」などを取り入れている。また手持ちカメラ風に画面がゆらゆらとわずかに揺れている演出も多い。これによって、アニメであるにも関わらず「登場人物たちをあたかもカメラで実際に撮影した」ような印象が生まれている。

 この3つを合わせると、京都アニメーションは「絵でしかない背景や登場人物が、あたかも実際に存在しているかのような映像」を目標にしているということがわかる。実写で撮影すればなんていうことのない風景として意識に残らない映像が、アニメとして再表現されると、その細部が非常に鮮明な印象として立ち上がってくる。そこに京都アニメーション作品の魅力のひとつがある。

 こうした効果がよく生きているのが『氷菓』(2012年、武本康弘監督)や『映画 聲の形』(2016年、山田尚子監督)といえる。

『氷菓』の原作は米澤穂信のミステリー。殺人が起きない、いわゆる「日常の謎」を扱った内容で、神山高校の古典部の折木奉太郎たちがその謎を解いていく。原作者の故郷である岐阜県高山市にロケハンを行い、背景はそれに基づいて描かれている。アニメ的なSF・ファンタジー的要素がなく、ともすれば地味に見えそうな企画だが、先述したようなこだわりをもった映像づくりにによって、視聴者を飽きさせない作品に仕上がっている。本作を境に、京都アニメーションはSF・ファンタジー的要素のない作品のアニメ化も増えていく。

『映画 聲の形』販売元:ポニーキャニオン

『映画 聲の形』は大今良時の漫画が原作。聾啞といじめが絡む重たい内容だが、過去の自分を乗り越えて少年・石田将也と少女・西宮硝子が自尊感情を取り戻していく過程を丁寧に描き出した。こちらも実写化されてもおかしくないリアルな内容だが、心を閉じていた将也が、心を開いた瞬間、周囲の人の見え方ががらりと変わるシーンなどはアニメでなくては表現できないシーンが多数ある作品となっている。本作は第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞している。