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2020/01/02

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, スポーツ

選手と監督との間には深い溝が

 國保監督は公立の盛岡一高の出身で、筑波大を経て米国独立リーグも経験した野球人である。大船渡では國保監督は体育科の教員を務める。米国の経験から、投手の肩やヒジの投球疲労には神経をつかい、また強豪私立の勝利至上主義を貫くような職業監督とは対局の立場で指揮を執っていた。目先の勝利よりも、選手全員の成長に期待する教育者としての姿勢は、崇高なものかもしれない。だが、総力戦で戦うと話したわりには、和田には完投を強いている。チームを勝利に導く監督として、彼の言葉と采配には矛盾しか感じられなかった。

「先発した和田吟太が一生懸命投げていたので、なんとか、このまま勝ちをつけてあげたいなと思って、引っ張りました。今日投げた球数は120球ぐらいだったと思うんですけど、和田は冬の間にピッチング練習をたくさんして、右肩が出来上がった状態でこの大会を迎えた。佐々木の場合はなかなかそういうことにならずに、(仕上がりが)遅れた状態でここまで来ています」

県大会で好投する佐々木投手  ©文藝春秋

 結果的に大船渡は岩手大会1回戦で敗れ、夏はノーシードで戦うことになった。試合後、佐々木はあの送りバントのシーンをこう振り返った。

「点を取るための作戦。それが(監督の)指示だったと思うので、しょうがないと思います」

 高校野球の監督を、まして公立高校の指揮官の采配を、プロ野球の監督と同じように批判することは御法度だろう。だが、國保監督の采配はあまりに不可解だった、そして、國保監督の采配の意図を選手がどれだけ理解していたのか。疑問は募るばかりだった。もしかしたら、夏の大会も佐々木が登板することなく、終戦を迎えるのではないか。そういう疑念が巡り、そしてそれは現実となった。

 この日の試合以降、大船渡のベンチにいる國保監督が「サイン」を出すことはなくなった。監督が攻撃前の円陣に加わって選手を鼓舞するようなシーンはなく、打席に入った選手が、監督をまるで見ようとしない。

 選手と監督との間には、深い溝が生まれているように見えた。

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