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連載「イラク水滸伝」外伝

イラクにおける「国内国家」クルド人自治区のさらに未知なる世界

「イラク水滸伝」外伝――第8回:クルディスタンのヤズディ教徒

2019/12/16

genre : ライフ, , 国際

 メソポタミア文明が誕生した巨大湿地帯に、豪傑たちが逃げ込んで暮らした“梁山泊”があった! 辺境作家・高野秀行氏は、ティグリス川とユーフラテス川の合流地点にあるこの湿地帯(アフワール)を次なる旅の目的地と定め、混沌としたイラクの地へと向かった。

 現在、「オール讀物」で連載中の「イラク水滸伝」では書き切れなかった「もう一つの物語」を写真を交えて伝えていきたい。

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 イラクの湿地帯を旅したあと、私たちはイラクの東北部にあるクルド人自治区、通称「クルディスタン」を訪れた。クルディスタンはイラクにおける「国内国家」とも言える独特の立場を築いており、ここも一種の「水滸伝地帯」と言える。ただし、自治区の大半は山岳地帯である。

 今回私たちを案内してくれたのは、ハイダル君の友人であるヤズディ教徒の人々だった。IS(イスラム国)の手で1万人以上が虐殺され、女性は奴隷に売られたことで有名になってしまった人々だ。知られざるクルディスタンの中の、さらに未知なるヤズディの世界を垣間見た旅をご紹介しよう。

「クルディスタンの独立にYes」

 クルディスタンは「二重行政地域」である。イラクのビザを持っていれば当然入国できるが、クルディスタン政府も独自のビザを発行しているので、それだけ取得して入国する外国人旅行者やジャーナリストが多い。そして、入国審査を通り抜けると、そこには「クルディスタンの独立にYes」という大きなクルディスタン国旗がかけられていた。イラクにいるとは思えない。

クルディスタンの「国旗」

 イラク・クルディスタンの首都とも呼ばれるアルビールの空港に降りたって自撮りを行ったところ、偶然クルド人とおぼしき若い美人ママが映り込んでしまった。クルドの若い人はアラブ・イラクの人たちより垢抜けている。ちなみに、空港の表記は英語、アラビア語、それにクルド語。

空港と若いお母さん

町がISに破壊され、避難してきた人々

 世界遺産となっている「アルビール城塞」の前で記念写真。私の右側はシェエラザードという名前の医師、左側は彼の従兄弟。二人ともシリア国境に近いヤズディ教徒の町シンジャールに住んでいたが、ISの攻撃によって町が完全に破壊されたため、避難民として逃げてきた。シェエラザードは現在、アルビールの病院に勤務しながら避難民キャンプで暮らすヤズディ教徒の支援を行っている。

アルビール城塞とヤズディの友達

 クルディスタンは他のイラクと全く雰囲気がちがう。アルビール城塞前にあるカフェの辺りなどはトルコや旧ユーゴスラビアのボスニアを思い出させる。

アルビール城塞前のカフェ