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連載「イラク水滸伝」外伝

イラクにおける「国内国家」クルド人自治区のさらに未知なる世界

「イラク水滸伝」外伝――第8回:クルディスタンのヤズディ教徒

2019/12/16

genre : ライフ, , 国際

日本のお寺の胎内めぐりのよう

 洞窟はいくつもの広い空間に分かれている。日本のお寺の胎内めぐりのよう。ここは聖者の棺の間。棺の周りを左回りに歩き、祈る。ちなみに、ヤズディには「青い服を着てはいけない」というこれまた奇妙な戒律があるのだが、最近の若者たちは気にせず青いジーンズをはいている。

聖人の棺

 オリーブ油の入った壺が何十と並ぶ「オリーブの間」。まるでアラビアンナイトの「アリババと四十人の盗賊」を彷彿させる光景だ。洞窟はオリーブ油の濃い香りでむせかえるよう。

オリーブの間

唯一信者しか行くことができない聖なる泉

 私たち外国人も立ち入り可で写真やビデオ撮影もオーケーという至って気さくなヤズディの聖地だが、「ザムザム」と呼ばれる聖なる泉の間だけは信者しか行くことができないという。ただし写真撮影はできるので、中の様子を撮ってきてもらった。ここで信者は手や口を清めるようだ。ちなみに、この泉の水はメッカの同名の泉ザムザムと地下でつながっているという。この辺はイスラムとのつながりを示している。

 ヤズディは太陽や水などの自然物を拝むところはアニミズムに似ているが、司祭のカーストがあるところはマンダ教やゾロアスター教のようだし、歴史的にいろいろな宗教とも複雑に混じっているようだ。

聖なる水

ヤズディだけが真実を知る「選ばれた民」

 洞窟の脇にある別の建物には司祭が住んでいた。「オスマン帝国時代にはヤズディは73回攻撃され、虐殺された」という。今回のISによる虐殺と迫害は決して初めてでもないし特別でもないのだそうだ。あまりの悲惨な歴史になんて同情したらいいかわからずにいたら、司祭は「ここ(ラリシュ)で神はアダムとイブをつくった」と事も無げに述べた。世界を作ったのはヤズディの神であり、ヤズディだけが真実を知る民ということらしい。マンダ教同様、彼らも強烈な自負心をもつ「選ばれた民」なのである。

ヤズディの司祭
 

 以上、駆け足でクルディスタンを回ったが、ここは湿地帯とは全く別の意味でひじょうに興味深い土地であり、ヤズディ教徒をはじめ、まだまだ広く知られていないことばかりである。機会があれば、ぜひもう一度来て、今度はもっとじっくり旅をしてみたい。

※「イラク水滸伝」本編は『オール讀物』2019年12月号で連載中。

写真=高野秀行

オール讀物2019年12月号

 

文藝春秋

2019年11月22日 発売

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