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「地獄を見たあなたと一緒にいつか……」熊沢英昭さんに伝えたいこと――飯島勲氏が綴った“盟友”への思い

飯島勲「激辛インテリジェンス」

2019/12/16

 元農水次官の熊沢英昭被告が自宅で44歳の長男を殺害した事件の裁判で、検察側は懲役6年(求刑懲役8年)を言い渡した。東京地裁は「強固な殺意に基づく危険な犯行で、息子と同居してわずか1週間ほどで殺害を実行した経緯は、短絡的な面がある」と指摘した一方、「長年にわたり、安定した関係を築く努力をしてきた中で、同居翌日から息子の暴力で恐怖を感じるなどの事情があったことは否定できない」と述べた。

 熊沢被告とは、一体どのような人物だったのだろうか。定期的に食事をする関係だったという飯島勲氏(小泉純一郎元首相の秘書官)が、事件直後に寄稿した「週刊文春」2019年6月20日号の記事を公開する。なお、記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のまま。

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 大ショックだぜ。元農水事務次官の熊沢英昭容疑者が長男を包丁で刺し、殺人容疑で送検された一件よ。絶対許されない行為だけど、一刀両断にはできないな。

 小泉純一郎内閣時代、BSE(牛海綿状脳症)の問題で、輸入牛肉の安全・安心を巡る大混乱が起きただろ。当時の農水省で対応に奔走したのが熊沢次官でね。

 責任を一身に背負ってもらうため、内閣として次官更迭の体裁を取ったのよ。

2001年、BSE問題で会見する熊沢英昭 ©共同通信社

 でも行政手腕は高く評価してたからね。同じ小泉内閣で、駐チェコ大使に任命して赴任してもらった。農水省高官として初めての大使起用だったけど、もともと国際派だから大活躍でさ。

 大物次官OBとして定期的に食事したりする間柄で、6月にも会食の予定があったわけよ。家庭内暴力などで苦悩を抱えてるなんて素振りもなくてさ。何とか孤独からはい出して、一言相談して欲しかったぜ。

 熊沢容疑者は、川崎市の登戸駅近辺での小学生などの殺傷事件をニュースで見て、長男も第三者に危害を加えかねない、って危機感を強めたって言うじゃん。

 登戸の事件も引きこもりが原因なのかどうか、断定できないって論争も起きてるけどさ。2つの事件に共通するのは、子どもとの関係で困難を抱えた家族が、それを自らの責任だと思い詰めるあまり、世間から孤立してどうにもならなくなることだね。世の中の谷間に落ち込んじゃった家族よ。

飯島勲氏

 オレだって人ごとじゃなくてさ。4人きょうだいのうち、他の3人は知的障害があってね。オレなんてホントは中学で成績優秀で、進学に夢を描いていたのに、先生からお前はきょうだいの面倒をちゃんと見ろって定時制高校に行かされてさ。

 悔しい思いをしながら、きょうだいと一緒に生きてきたよ。小泉純一郎衆院議員の秘書になり、40歳を過ぎた頃かな。故郷の長野県辰野町の親から深夜に緊急連絡が入ってさ。実家で同居していた姉が徘徊して行方不明になり、遠方で警察に保護されたから、勲が迎えに行ってくれって。

 今も住んでる千葉から慌てて車で長野まで突っ走って身柄を引き取ってさ。大騒ぎして徹夜で永田町に駆け戻って出勤するようなことを何度も何度もね。オレが断酒したのも、夜中の緊急呼び出しに備えるためよ。