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北朝鮮に“貨物船”を売りさばく、怪しげな韓国企業の実態とは

2020年の論点100

2020/01/01

「わが社の船が北朝鮮企業の手に渡ってしまったことは我々も把握している。しかしこれは機微な情報なので、社内でも知っているのは数名だけだ。いったい君はどこでその情報を入手した?」

制裁を回避するために新設した「北朝鮮ペーパー企業」の存在

 2019年8月20日、私はソウル都心の鍾路区仁寺洞にある船舶企業A社を訪問した。A社はビルの9階のフロアーの半分を占有し、構えも立派だ。ただ、微妙な違和感が漂っている。幹部と思しき年配女性が妙にけばけばしい化粧をし、なぜか社員の机は全て正面入り口方面を向き、窓際に座る幹部が社員全員のコンピューター画面を後方から監視できるようになっている。社員は一言も話さず、どこか普通ではない。

 私はその会社の在来船部門の担当部長のオフィスに、通訳とともに座った。40歳前後、オールバックの髪型の彼は、明らかに苛立っていた。

 A社は複数の船舶を所有・運航する。そのうちの一隻に、ある「バラ積み貨物船」が含まれていた。石炭や鉱石等、梱包されていない貨物を輸送する船だ。

 A社は16年3月、この貨物船を売却し、「Nampho Fishery 社」という企業がこれを購入した。国際海事機関(IMO)のデータベースを見ると、この会社の所在地は北朝鮮の「南浦市臥牛島区」。つまり、北朝鮮企業が韓国企業から貨物船を購入した、ということだ。この北朝鮮企業は当時、IMO船舶データベースに新規登録されたばかりだった。おそらく北朝鮮が海外から船舶を調達する際、制裁を回避するために新設したペーパー企業と思われる。

出典元 https://www.marinetraffic.com/jp/ais/details/ships/shipid:464566/mmsi:445539000/imo:8937675/vessel:TONG_SAN_2

 同年4月1日にこの船は「Tong San 2号」と改名され、北朝鮮籍の貨物船としてIMOに登録された。その後、この船は自らの位置を示す「自動船舶識別装置」の電波発信スイッチを切り、行方をくらましながら航行するという不自然な動きを示した。