文春オンライン

その本屋を訪ねるために旅をする価値があるか 鎌倉・たらば書房

2016/08/13

genre : エンタメ, 読書

note

 一番好きな本屋さんはどこだろう。

 CREA WEBで連載を始めたのが約3年前、本の話WEBに移って「週末の旅は本屋さん」というコラムの取材でたくさんの本屋さんを訪ねてきた(今回の取材で通算45軒目)。取材した中には、大規模店も地域のチェーンも、狭い路地を入ったところの小さな本屋さんもある。それぞれの立地やお客様、店の規模も商品構成も、そこで働く書店員さんも違う、それぞれ全く違う個性と魅力があり、どこが好きというのはなかなか難しい。文芸書の売り場ではここ、人文書ではあそこ、一番落ち着ける売り場は、ついつい買っちゃう売り場は、書店員さんに話しかけやすいのは、書店フリーペーパーではあの店かな、と、考えてみた。

 今回の取材先を決めるに当たっては、このコラム(「週末の旅は本屋さん」というように、元々は旅コラムだったのです)らしく、一番旅先で寄りたい本屋さんということで、鎌倉のたらば書房にうかがった。

ADVERTISEMENT

鎌倉駅西口、静かな方、江ノ電乗り場のある方の改札口。
黄色いひさしが目印のたらば書房。

 小町通りの喧噪のある東口とは打って変わって、静かなたたずまいの鎌倉駅西口、歩いても1分かからないだろうか、駅のロータリーの角から2軒目がたらば書房だ。店長の川瀬由美子さんによると、観光客も、最近では外国の方もいらっしゃるが、やはり地元のお客様が多いそうだ。散歩のついでに立ち寄るような本屋でありたいとのこと。

 たらば書房に最初に来たのは、書店員の友人に勧められて立ち寄ったのが数年前、その時は、人文系、自然科学系の硬派な本がさりげなく置いてある売り場に感銘を受けた。以来、友人知人にお勧めの本屋を聞かれるたびに「鎌倉のたらば書房」と答え、仕事や観光で近くに行くたびに、たらば書房に吸い寄せられるように立ち寄る。

 たらば書房の売り場では、最近は、外国文学や詩の本が気になるようになった。川瀬店長によると、あんまり専門的な難しすぎる本にならないように気をつけているが、どこか「引っかかる」面白い本を選ぶようにしているとのこと。万人に興味を持ってもらうのではなく、誰かの気持ちに引っかかりができればいい。こちら側の興味関心によって、人文書が気になっているときには人文書の陳列に惹かれ、外国文学に興味が行っているときには外国文学の棚が目に入る、そんな売り場なのかもしれない。

小さな店内。正面の平台は、文芸書新刊やアートの本が並ぶ。
新刊平台。装幀家のエッセイ集『装幀の余白から』には、たらば書房も登場する。

 正面入り口の平台は、新刊書籍の棚。文芸書が中心だが、国立西洋美術館の世界遺産登録で話題のル・コルビュジエの建築書、画家フリーダ・カーロの遺品を撮影した写真集、装幀家菊地信義さんのエッセイ集、地元鎌倉が舞台の新刊小説、絵本作家や翻訳家の評伝などが、人気作家の話題の新刊に並ぶ。この棚を見るだけでも、この本屋さんには何か面白そうな本があるに違いないと思わせる。

【次ページ】「引っかかる」本たち

関連記事