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「SFと百合が合わさったエモさが求められている」今、百合SFを読むべき理由【名作リストつき】

伊藤計劃さんの『ハーモニー』からブームが始まった

2019/12/23

『週刊文春WOMAN』2019年夏号で百合マンガの現在について書いた。その取材中、頻繁に耳にしたのが、SFのサブジャンルのひとつ「百合SF」だ。

 このジャンルが広く注目を集めたのは、2018年12月発売の『SFマガジン』で百合SF特集が組まれて以降。苦戦をしいられる文藝誌において異例の発売前重版&3刷を重ねた同誌を皮切りに、同誌掲載作を収録した『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』も好調な売れ行きをみせている。

百合SFを大特集した『SFマガジン』2019年2月号は創刊以来初の3刷に
2018年末に発売されて3刷を数えた『SFマガジン』百合SF特集号。表紙は伊藤計劃『ハーモニー』の装画(シライシユウコ画)を使用。溝口さんは、「品切れ中に年末年始を挟み、いい意味で飢餓感を煽った側面もあったと思います」と冷静に分析。ここからブームは始まった。

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百合SFは異例の売り上げ

 百合マンガ界唯一の専門誌『コミック百合姫』の梅澤佳奈子編集長も、「百合ものを収録した伴名練さん初のSF作品集『なめらかな世界と、その敵』が19年8月に刊行され、発売からわずか1週間で5刷と異例の売り上げです」と関心を寄せる。 

 先述の3作全てに関わったのは、早川書房「SFマガジン」編集部の溝口力丸さん。特集のきっかけとなったのは、2008年末に伊藤計劃さんが発表した『ハーモニー』だと言う。

「百合に関しては早川書房にも先人の方はいらしたのですが、百合SFとなると『ハーモニー』ですね。伊藤さんがご自身のサイトに『(この作品の)テーマは百合です』と書かれたことで世に種が撒かれ、作品自体、星雲賞も日本SF大賞も国内のオールタイムベスト(「SFマガジン」主催。8年に1度、読者投票で古今東西のベスト100を決定)も取った。その流れで『ハーモニー』を知った人が、『ハーモニー』的なものを探すようになったんです」

週刊文春WOMAN (vol.4 創刊1周年記念号)

 折しもツイッターが普及し、百合SFを渇望する読者の声が見えやすくなっていた頃。同時期、森田季節や月村了衛らの作品を百合SFと捉える向きも出てきた。さらには、草野原々が『最後にして最初のアイドル』を、宮澤伊織が『裏世界ピクニック』を発表し、共に作家本人が「これは百合SFである」と明言。先行する作品があり、作家が旗を振ったことで、何か企画を立ち上げたいと考えた溝口さんは、百合好きの書店員が発足させた百合部の部長が在籍する書泉に向かった。