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 しかし、8月9日、岸社長から「資金繰りが苦しいので、取引先に覚書の条件を緩めてもらってこい」と申し入れがあったのだ。

「会社の事情はわかります。しかし取引業者の皆さんにも従業員にも家族がいるんです。来月の収入がないかもしれないという不安のなかで働かせるわけにはいかない。8月13日、社長に『お盆中は繁忙期なので、交渉は無理です』と訴えました。すると社長は『(破るのは)お盆明けの20日でいいな』と、撤回について譲りませんでした」(同前)

社長が言い放った「解雇、解雇、解雇」

 2人のやりとりはヒートアップしてゆき、口論になっていった。

「どう話しても埒が明かない。この件で奔走して体調を崩していたこともあり、『今日は帰らせてください』と事務所を出ました。帰り際、取引先の人がいたので日常会話をしていたら、社長がやってきて『解雇、解雇、解雇』と連発したのです。さらに社長は『オマエ、何話してるんだ! 加藤の言ってる事は全部嘘です』とその場で喚き出しました」(同前)

再開を知らせる張り紙 ©文藝春秋

 加藤氏はその日のうちに荷物をまとめるよう指示され、会社を後にした。加藤氏の解雇から3時間後には後任の総務部長が送り込まれていたという。

「深夜0時前、仕事が終わった従業員から連絡が届き始めました。SNSでグループを作り話し合いを始めたのですが、そこで従業員は『加藤さんについていきたいけど、娘や生活もあって、本当にすみません……』と言ってくれた。それは当然の意見です。私も労基署に相談し、1人で闘うつもりでした。しかし、そのなかである従業員が『会社に残っても安定なんてないですよね? それなら加藤さんについていきます』と声を挙げたのです」(同前)

加藤氏を慕う従業員たちによる一斉蜂起

 その一声は、他の従業員たちの心に波紋を広げていった。

「この会社に先はない。そう考えた人たちが、次々に私についていくと言い出したのです。実際のところ、私は暑い日にジュースを差し入れしたくらいで、ろくに話したこともない方が大半なんです。だからここまでついてきてくれるなんて……」(同前)

厨房に従業員の姿はなく、レジも休止されていた ©文藝春秋

 予想だにしていなかった従業員たちの言葉に、加藤氏は心を動かされた。

「その時、時計の針はすでに午前2時を回っていました。そこで、まずはここに集まっている人たちだけで、明日から体調不良を理由に出社しないことにしようという話になりました。しかし、売店のバックヤードにはもう翌日午前中分の商品しか残っていなかったんです。実は8月4日から5日にかけて商品がほとんどなくなってしまったことがあるんです。お客様で大混雑するなか、レジに突っ立ってクレームを受け続け、本当に辛かった。今回も同様の事態に陥ってしまう。それなら店を閉めてしまおう、ということになったのです」(同前)