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大人の恋愛劇を通して描かれる出版業界の現在

オリヴィエ・アサイヤス(映画監督)インタビュー

2019/12/20

source : 週刊文春

genre : エンタメ, 映画

 オリヴィエ・アサイヤス監督の新作『冬時間のパリ』が、12月20日(金)から公開される。テクノロジーの進化がもたらす現代の不安と恐怖を描いた前作『パーソナル・ショッパー』(2016年)とはうって変わり、新作は、二組の中年カップルが織り成す恋愛コメディ。パリの出版業界を舞台に、ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュら名優たちによって、嘘と秘密に満ちた関係がユーモラスに描かれる。一方、劇中では書籍編集者と作家を中心に書籍のデジタル化をめぐる議論が活発に交わされ、軽妙な対話劇が、笑いと共に不思議な興奮をもたらしてくれる。複雑な恋愛関係と出版業界の変化。斬新な主題設定に驚かされるが、もともと、電子書籍についての映画を作ることから企画が始まり、キャストが決まり脚本が書かれていくうちに自然と恋愛コメディの要素が増えていったという。大人の恋愛劇を通して描かれる出版業界の姿。そこにはたしかに私たちが生きる現在が映されている。

オリヴィエ・アサイヤス監督

出版のデジタル革命は思ったほど浸透しなかった

――映画の中での対話がもたらす興奮に酔いしれました。これは脚本の力なのは、それとも俳優たちの演技の力が大きいのでしょうか。

アサイヤス 出発点にあるのは脚本ですが、台詞に魂を吹き込みコミカルさを加えるのは俳優たち。映画は、監督や撮影監督、編集技師と俳優たちとの共同作業であるわけですが、何より重要なのは俳優の力量です。だからこそ、撮影中は彼らを制限しないで、もっともっと自由を与えなければいけない。それが演出のうえで常に心がけていることです。

――もともと書籍のデジタル化というテーマが中心にあったそうですが、いつ頃からこのテーマに興味を持ったのでしょうか。

アサイヤス 一般的なデジタル化の議論は、まずパソコンの登場から始まりましたよね。パソコンで書くのか、手書きで書くのか、あるいはタイプライターで書くのか。道具が変わることで、書くという行為の性質もたしかに変わっていきました。電子書籍自体はずいぶん前から出てきていたけれど、2、3年ほど前から、電子書籍は思っていたほど浸透しなかった、という事実が明らかになってきた。一時期は、電子書籍が紙の本に取って替わるんだというユートピア的な見方もありましたが、現在の数字を見てみると、実はそれほど読者がついてこなかった。予想されていた出版業界の大転換というのは結局起こらなかったわけです。

©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

――電子書籍に対するユートピア的な幻想は完全に終わった、という思いからこの映画を作りはじめたということですか?

アサイヤス いえ、正確にはまだ終わっていません。電子化をめぐる議論はいまだ結論が出ないまま続いています。映画業界の場合は別です。撮影方法から鑑賞方法にいたるまで、映画の世界ではデジタル化が浸透し、その変化を我々はすでに受け入れています。それに比べて、出版業界ではデジタル化に対する抵抗が意外にも健闘した、というのが私の印象です。