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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

異色のロードムービー

2019/12/22

 今更だけど、ヘヴィメタって、何? 日本女性によるユニットBABYMETALも大人気だし、周囲にもこのジャンルの音楽を愛する人たちが多くいるけど、実は、わたしは未だによくわかっていないのです。悪魔を崇拝したり、真っ黒な衣装で火を吹いたりするというおぼろげなイメージしかなく……(本当にすみません……)。

 で、さて。この映画は、北欧フィンランドの村を舞台にした、真っ黒で、火を吹く、異色のヘヴィメタ・青春・ロードムービーなのだ。

 トゥロは二五歳の内気な青年。地元の仲間三人と“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”を目指すバンドを十二年も続けている。だがまだ一度もステージに立ったことがない……。ある日ドラマーのユンキが、トナカイを轢くまいとして交通事故死。残された三人は、ユンキの入った棺桶を盗み、精神科病院から新ドラマーを誘拐し、国境を突破して、爆走しだした! ノルウェーで行われるフェスに参加するために!

©Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

 この映画を観れば、ヘヴィメタとは何かがわかる……ということは、ない……。トゥロ達を追跡する警察の女隊長は、「私も四十代の女だから悪魔は好きよ! でも事情は聞かせてもらうわ!」と叫ぶし、警察を振り切って辿り着いたフェス会場では、主催者が「棺桶盗んで国境越えた! コイツら最高にメタルだぜぇ!」と感激する。どうも、前提とされている価値観をいま一歩理解できないまま、不安とともに観続けた。

 それでも、心はずっと感動で震えていた。トゥロ達の無軌道な旅が、仲間の“追悼”のためだということ、フェスで演奏するという“喪の儀礼”が終わらない限り、みんな前に進めないということが、痛いほど伝わってきたし、それは、人間の普遍の物語だったからだ。

 青春が終わり、人生が始まる。こっそり偏愛したくなる一本でした。

INFORMATION

『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』
12月27日よりシネマート新宿&心斎橋ほかにてロードショー
http://heavy-trip-movie.com

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