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連載歴史・時代小説の歩き方

2014/10/18

栗のいがいががまるまるに

 西條奈加『まるまるの毬(いが)』(講談社)は、江戸の麹町で菓子を商う南星屋が舞台だ。全国を放浪して菓子の修行をした店主(実はとんでもない出生の秘密あり!)が、各地の名物をアレンジして店に出す。連作の形で各話に季節の和菓子が登場し、それが物語に関わってくるという趣向。

まるまるの毬

西條 奈加(著)

講談社
2014年6月25日 発売

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  タイトルの「まるまる」というのは京の女房言葉で団子のことだ。団子の周囲に餅米などを貼り付けて栗の毬(いが)に見立てるのだという。いが餅という安芸の和菓子だそうだ。見立て、つまり偽の栗なのだが、本編ではこれを本物の栗で作る。

 ケンカ中の母と娘が一緒に団子をまるめる。甘くて丸い団子を作っているのに、気持ちはいがいがしている。このあたりの心情を栗のいが餅になぞらえるくだりがいい。この家族は和菓子そのものだ。硬い材料があっても、いがいがが出ても、しょっぱくなっても、他の誰かが甘い餡でそれを包んでまるくなる。いがいがを内に隠したら自分に刺さるけど、いがいがしてる自分を見せれば誰かがそれをとってくれるのだ。

 あれ? そういや毬(いが)って「まり」とも読むよね? いがいがのはずなのに、まんまるのまりと同じ字だなんて! ということは、おお、『まるまるの毬』とはまさに、栗のーままのー姿見せるのよー、まりのーままのー自分になるのお、って話なんじゃないか!

 さて、では栗と並んで日本人が古代から食べてきた、もうひとつの秋の果物とは何か。サルがカニにぶつけて仕返しされたアレですよ、アレ。そう、柿。そう いやあの昔話には栗も出てきたっけ。もうひとつ、有名な昔話に桃太郎があり、桃栗三年柿八年と3点セットで諺にもなっている。これらは昔話や諺にも登場するほど、古くから身近な果物だったのだ。

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