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嫌韓派は「やはり韓国人の歴史認識は間違いだった」と浮かれてはいけない――小倉紀蔵が語る「反日種族主義」

「反日種族主義」大論争#5

2019/12/31

 竹島、徴用工や慰安婦問題など韓国で通説となっている歴史認識を検証した『反日種族主義』。今夏刊行された韓国では曺国前法相が批判するなど物議を醸し11万部超、11月発売の日本版は36万部に。日韓で賛否両論、波紋を呼ぶ本書を識者が論じる。

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小倉紀蔵氏(京都大学教授)

 これは、すべての韓国人に読んでもらいたい本だ。

 なぜかというと、この本を読めば、歴史に対する自分たちの劣等感から解放されるからだ。

「日本はずるくて不道徳な盗賊であり、その朝鮮統治は悪辣で無法状態だった」という「物語」を韓国人が信じているかぎり、「どうしてそんな悪い無法者にわが民族は唯々諾々と35年も支配されてしまったのか」という問いに答えられない。ここに劣等感が宿る。この問いに答えられないので、「道徳的に立派な独立運動家と、不道徳にも日本に協力した親日派がいた。悪いのは日本および親日派だ」という単純な二分論に陥るしか道はない。しかし「なぜ親日派は日本に協力したのか」という謎には答えられないので、「あいつらは悪いから日本に協力した。なぜならあいつらは悪い奴らだからだ」というトートロジー(同語反復)の回路をぐるぐるまわるしかない。同語反復はニヒリズムを招く。韓国人の歴史認識はニヒリズムそのものなのだ。

韓国版(左)日本版は文藝春秋刊(右)

 この本を読めば、日本の統治が、韓国の多くのひとたちが信じているような「物語」とは異なっていたということがわかる。合理的かつ合法的、そしてそれなりに平等主義的な統治がされた。だから当時の朝鮮人は、それにしたがってしまったのだ。

 朝鮮人が意気地なしだったわけでも、親日派が特別に不道徳だったわけでもない。必死に日々を暮らす人間として、それなりの合理的な選択をしつつ生きていた。この本の著者たちは、「韓国人は歴史に対して過度な劣等感を抱くな」と励ましているのである。