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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『パラサイト 半地下の家族』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

韓国発のダークコメディ

2019/12/29

 子供のころ、お友達の家に親子で招かれ、「子供たち手を洗ってらっしゃい」「はーい」と、わたしだけ台所に走った。お母さん方が「アッ……」と息を呑んだと後で聞いた。うちは公務員官舎で、風呂もトイレもあるが、洗面所はなく、洗顔も歯磨きも何もかも台所でやっていた。公務員だから、貧乏ではないけど……ほかのおうちは弁護士さんや地元テレビ局の経営者などだったから……。

「恥ずかしい!」と叱られながらの帰り道、世の中には階級(クラース)というものがあるのだと、なんとなく気づいた。でも、こうしていま思い返しても、あのときの自分のことを恥ずかしいとはぜったいに思わない。だってまだ五、六歳の子供だったんだし、わたしの人間性とは関係ないことだし、だいたいクラースがなんだってんだよ、なんでも万能のいい台所だったじゃねぇかよ、って。

 さ、さて。興奮しだしたので、一回冷静になって……この映画は、上流階級の家に出入りする貧しい一家の奇怪で切実な闘いを描く、韓国発のダークコメディなのだ。

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 失業中のキム一家は、じめじめした“半地下”のアパートで身を寄せ合って暮らしていた。ある日、長男ギウが家庭教師の職を得、IT企業社長の豪邸に出入りしだす。やがて妹も雇ってもらい、キム一家は社長宅にじわじわパラサイトしだすのだが……?

 大サービスのどんでん返しが続き、驚きと笑いと現実の苦味が同時に押し寄せて、ずっと面白い。そして、奮闘する“半地下”のキム一家には、最初から最後まで、とある特徴が……例えるなら昔のわたしの“台所で手を洗う”みたいな、階級を一発で見抜かれてしまう徴(しるし)がある。そのことは、胸を掻きむしられるような惨めさを一家にもたらし、二つの家族の運命にも大いに関わるのだ。

 社会風刺の皮肉も効きつつ、人間の強さや絆も改めて信じられる、大満足の一本でした。

INFORMATION

『パラサイト 半地下の家族』
1月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!
http://www.parasite-mv.jp/

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