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「民俗学といえば妖怪、夜這いでしょ?」民俗学者が悩む“風評被害”

2020/01/17

 昨年の春、私は新著刊行を機に、販売促進のため遅ればせながらTwitterを開設した。ユーザー歴は1年ほどである。そのため使用方法や、SNS空間特有の作法を十分にわきまえておらず、いつか「炎上」を引き起こしてしまうのではないかと内心怯えながら、日々の徒然を呟きはじめたのである。 

 そして暮れも押し迫った2019年12月17日、ついにその日が訪れてしまった。事の発端は、以下の私のツイートである。 

“以前担当した「民俗学」の講義で、受講生から「いつになったら妖怪が出て来るんですか?」と言われて絶句しました。「シラバス読んだでしょ?」と答えるしかありませんでしたが、民俗学へのイメージに「妖怪」と「夜這い」を代表させた言説を検証したい。僕にとって、かかる先入観は「風評被害」です。”

12月17日のツイート


 これは、私が今まで出講した大学で何度も経験した出来事である。あらかじめ講義計画で示した内容とあまりにズレた質問をする学生と度々出会うにつけ、私の中で、「なぜ世間では民俗学に『妖怪』や『夜這い』といったエキセントリックなイメージが付着しているのだろう」という疑問が芽生えていった。そのことを何気なく呟いたのだが、今では言わでものことだったと後悔している。 

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 当初、このツイートにはさしたる反応はなかったが、数時間後、妖怪研究を専門とするある民俗学者がリツイートしたのをきっかけに、にわかに大量のリツイートがはじまり、件数はわずかの時間で1000以上に急上昇、一気に炎上状態となった。 

 これに呼応するように、私への批判的なリプライが相次いだ。いずれも匿名のユーザー曰く「(学生の質問は)あなたの講義がつまらないという意思表示では?」、「(私の講義が)ここまで妖怪ハンター無しとは失望した。お前らの間違った民俗学観はまだ間違い足りないようである」等々。はじめて自分の身に起きた事態に、私は恐怖を感じ、ただ呆然として推移を見守るしかなかった。   

©iStock.com

「民俗=醇風美俗」と捉える危険性 

 確認しておくが、私は前述のツイートで、妖怪も妖怪研究者も批判していない。「風評被害」という言葉は穏やかではなかったかもしれないが、それは巷間で「民俗学=妖怪研究」というイメージが根強いことを私が実感しており、その厄介さを吐露したに過ぎないのである。 

 にもかかわらず、なぜ件のツイートに怒りをおぼえる人が続出したのだろうか?