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「就職活動をしよう」31歳プロ棋士が副業をしようと思い立った結果

「就職活動をしよう」31歳プロ棋士が副業をしようと思い立った結果

私には時間がある。軽い気持ちで一社に応募したが……

2020/01/15
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 辞める辞めるとは言っていたけれど、とうとう妻が本当に職場を退職する時がきた。もっと私が協力するべきだったのか……そんなことを少しは頭を過ぎるのだけれど、やっぱりなにが良かったなんて結局わからないのだから来年のことを考えるかと思い直す。

 今までは積極的に仕事を求めず悠々自適な毎日を送っていたが、妻が退職したら将棋関係に限らず、副業をして収入を増やそうと以前から考えていた。生活水準を下げるのは簡単ではない。それに私には時間もある。

©iStock.com

目星をつけていた健康麻雀店は……

 フリーランスやYouTubeなどで活動する人が増えている今だからこそ、棋士が正社員として就職したら面白いんじゃないかと思った。アマチュアからの棋士編入試験ができたんだから、プロ棋士の就職編入試験をしてもいいじゃないか。

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 とりあえず、目星をつけていた健康麻雀店のホームページを開いてみる。以前と同じようにスタッフを募集していたが、よく見ると「ホール業務全般(麻雀をする場合あり)」と書いてある。滅多に麻雀をしないならここにする意味ないな……ほかにタバコが嫌いな私ができそうな店はあまり見当たらなかった。

 ゲーム実況配信も以前から考えたことがある。少し専門的な話になってしまうが、Hearthstoneというカードゲームの闘技場というフォーマットで平均6勝ぐらいできていた。月間ランキングに入れるラインがだいたい7勝ぐらいと聞いたので、もう少し集中してやって運を味方につければ手の届かない話ではないと思った。しかし、配信するとなると環境を整えるのが大変だ。家には家族がいるのでなかなか集中できる環境を作るのは難しい。別棟で配信専用の部屋を作るぐらいのことをしなければ収入にはつながらない気がした。でも、収入につながるかわからないゲーム配信で一部屋作るなど、到底家族の理解を得られないだろう。

世界中でプレーされているHearthstone ©getty

囲碁棋士とクラウドファンディングを検討したことも

 一部屋作るという話では、ボードゲームなどができる貸室ビジネスをしたいと思い、実際に調べてみたこともある。飲食店などと比べると、将棋などのボードゲームならランニングコストが全然かからない。そのため、賃貸ではなく区分所有して始めたいと考えた。長期的に見て収入につながることをしたいと思っていたのも購入を考えた理由の一つだ。

 購入するとなると当然資金面の問題はある。囲碁棋士とクラウドファンディングで集めるのはどうかと計画したのだが、商業ビルではなく区分事務所になる。会員制にすれば大丈夫かもしれないが、事務所で商業的なことをするのがグレーゾーンである。たとえクラウドファンディングがうまくいったとしても、事業として成功するビジョンが見えなかったので実行には移さなかった。

 とここまで書いたところで、「将棋で収入得ること考えろやあ」という声にお答えしていきたい。まず将棋は好きだが、対局の収入を過剰に期待されるのは精神的に厳しい。対局には勝ちたいけど、一つのゲームとして楽しんでやりたい。