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連載歴史・時代小説の歩き方

2015/01/17

genre : エンタメ, 読書

久坂玄瑞が文との結婚を断った驚きの理由

 久坂玄瑞と品川弥二郎は同時期に松下村塾に学んだので、『花冠の志士』と『志士の風雪』には共通するエピソードが多い。その中から文に関する場面に注目してみる。

『花冠の志士』によると、久坂玄瑞が初めて杉家(吉田松陰の生家)を訪れた日は雨で、彼はずぶぬれで玄関に立つ。医師として修業中だった玄瑞は坊主頭で(東出昌大、頭剃らなきゃ!)、「まるで美僧を見るような色白の秀麗な面立ち」と古川薫は書いている。そんな玄瑞に文は一目惚れ。妹の思いを酌んだ吉田松陰は、玄瑞に妹との結婚を勧めた。

 ところが、尊敬する師の頼みであるにも関わらず、彼は一旦、断るのだ。その理由を塾生・中谷正亮に問われて、玄瑞はこう答えた。

「文さんは、不別嬪でしょう。嫁にするなら、美しい人をと、これは前々から考えちょったことであります」(中略)「美人の妻を持つ、これは昔から男子の望んできたことではありませんか」

 不別嬪!

 久坂玄瑞が全国の女子を敵に回した瞬間である。

 厳密に言えば、彼の言葉の前半は責められない。「美形が好き」というのは個人の嗜好の問題だからね。だが見過ごせないのは後半だ。自分の嗜好を男子全般の価値観だと思ってはいかん、いかんぞ玄瑞。その発想はオコチャマだぞ。ナレーションの池田秀一さんに「坊やだからさ」って言われるぞ。ちなみに私は大矢だからさ。関係ないですかそうですか。

 その証拠に『志士の風雪』の品川弥二郎は、文に惚れるのである。弥二郎は「文の優しい性格に惹かれ」「甲斐甲斐しく塾生の世話をしている文の姿」に惚れていく。しかも『志士の風雪』では、高杉晋作も文のことが好きなのだ(これが井上真央と夫婦役だった高良健吾だからややこしい)。ちゃんと見ている人は見ているのだ。顔じゃないのだ。

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