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高校時代9番セカンドからプロ野球選手に 嶋基宏の“ちょっとの頑張り”

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

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 2019年も暮れに差し迫った12月某日、仙台市内のホテルで嶋基宏ファンミーティングが行われた。2020年シーズンからは東京ヤクルトスワローズでプレーすることになる嶋選手にとって現役ではもしかすると東北での最後のファンミーティングなのかもしれない。そんな貴重な会に僕をゲストとして呼んでくれたのだ。

嶋基宏ファンミーティングの様子 ©かみじょうたけし

 嶋選手に何を質問すれば会場に来られたお客さんは喜ぶのだろう。そんな事を考えながら大阪から仙台へ向かった。少し早めにホテルについてしまった僕は、会場のお客さんに見てもらおうと自宅から持参した高校野球雑誌を久しぶりに読み返す。所々セロハンテープで補強されたそれは中京大中京のキャプテンとして彼が甲子園に出場した時のもの。報徳学園が大谷智久を擁して優勝したけど、準優勝した鳴門工業の濱永のレフト線への打球は迫力あったよなぁ。あっ、金光大阪のエースは吉見一起だ。平安には今浪隆博がいる。津田学園のユニフォームは縦縞の頃かぁ。17年前の記憶がよみがえる。

 ただ失礼ながら嶋基宏の記憶がよみがえらない。なぜだ? 初戦で広陵高校に4-0の完封負けでそうそうに甲子園を去ったからか? 違う。中京大中京のページを開いて納得した。打撃では1番三瓶の存在が大きい、3番菅原はミートに優れ、加藤、村田、中根ら下位打線にも切れ目がない。後は主砲の丹羽の復活を待つばかり。戦力分析の打撃陣6人も紹介しながら嶋のしの字もない、ちなみに守備走塁に関しても同じであった。

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「9番セカンドがプロ野球選手になったんです」

「お疲れ様でーす」

 いつの間にか集合時間、楽屋に嶋さんが現れた。

「大阪からっすか? 遠くからわざわざありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます。で、何喋りましょ?」

「なんでもアリです(笑)。好きに喋ってください!」

 その屈託のない笑顔が、緊張を解きほぐしてくれる。いつもそうだ。試合前にグラウンドで選手達の練習を見学させてもらう事がある。なかなか喋りかけづらい状況、良くて目が合えば挨拶が出来るくらい。そんな時に限って必ず声をかけてくれるのは嶋選手だった。親戚が集まる旦那の実家で、無口な嫁を見かねて声をかけてくれる義父のような存在、それはユニフォームを着ていない時も同じだった。楽屋では子供達全員分のサインを書くのにほぼ時間を使っていた彼はやっぱりカッコいい。そして打ち合わせという打ち合わせもなく舞台へ。色々質問を考えていたはずなのに僕は……

 さっきまで読んでいた高校野球雑誌をお客さんに回し、「嶋さんて高校時代は全く目立つ選手ではなかったんですか?」。

 違うやん、もっとあったやん……。

 そんな質問にも

「全くですよ(笑)。9番セカンドです、9番セカンドがプロ野球選手になったんです。ハハハ」

 確かに控えピッチャーがプロ野球選手になる事はよくある話。高校時代9番セカンドからプロ野球選手になった選手は果たして何人いるだろうか。その後も選手として限界を感じ、マネージャーになると大藤監督に進言した話や、たまたま甲子園での試合を見ていた國學院大学の竹田利秋監督が声をかけてくれたが、國學院大学以外で声をかけてくれた学校なんてなかった話、大学へ行って学校の先生になろうと思った事、これでもかというぐらいプロ野球選手になんてなれないと思っていた事を教えてくれた。

「9番セカンドです、9番セカンドがプロ野球選手になったんです」 ©かみじょうたけし

 会場のお客様からの質問コーナーでは新背番号45の話題に、「77番はダメですか? って聞いたら、コーチの番号だからって言われちゃいました(笑)」。

 そのコーチが今シーズンから就任が決まっている斎藤隆さんなんだから、考える事が同じでつくづく突き刺さってくる。 そして考えてきたことなんてほぼほぼ喋らずに楽しいファンミーティングはあっと言う間に終わりをむかえた。

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