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「死んでも枕元で怒鳴る」57歳になった俳優・松重豊が今も恐れる“あの演出家”

2020/01/19
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 きょう1月19日は俳優の松重豊の誕生日だ。1963年福岡県生まれの57歳。いまから13年前の2007年、ある映画雑誌に掲載された松重のインタビューでは、冒頭に《今回ここでは、パブリックイメージとも言える、大男・コワモテ=松重豊を覆し、柔和で、それでも太くて強い芯を持った役者、松重豊を堪能できます!》というリードが躍っていた(※1)。だが、いまや松重豊というと「大男・コワモテ」よりも、むしろ「柔和」なイメージを思い浮かべる人が多いのではないか。それほどまでにこの10年のあいだで彼のイメージはがらりと変わった。いや、当人が変わったというよりは、作品のつくり手や受け手の側から彼に求めるものが変わったというべきか。くだんのインタビューでは取材者(映画評論家の秋本鉄次)が、《松重豊はどんな役を演じていても“自分の身の置き所を持て余しているような男”のように映る。そこから時には凶暴性や威圧感が滲み出て、あるいは誠実なる寡黙さなどを醸し出す》と評していた。最近の出演作品でも、松重の「自分の身の置き所を持て余している」姿こそ変わらないものの、そこで求められるものが、凶暴性や威圧感から、哀愁だったり滑稽さへと変わったということではないだろうか。

『孤独のグルメ』で主人公・井之頭五郎役を演じる松重豊 ©文藝春秋

転機はやはり2012年『孤独のグルメ』

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 松重はすでに2007年にはNHKの朝ドラ『ちりとてちん』でヒロインの父親を演じるなど、家庭的な役もこなしていた。しかし転機となったのはやはり、2012年にテレビ東京系の深夜ドラマ『孤独のグルメ』で主人公・井之頭五郎役に起用されたことだろう。原作となった同名コミック(久住昌之原作、谷口ジロー作画)では、輸入雑貨商を営む五郎が、商談のあいまに街をさまよいながら、これぞと思った店に入って、一人食事をする。そこに物語らしい物語はない。ただ、店内の雰囲気や料理の感想などが淡々と五郎のモノローグで語られるのみだ。そんなハードボイルド調ともいうべき同作をドラマ化するにあたり、自分の身の置き所を持て余しているような松重のキャラクターは、まさにうってつけであった。ドラマ版『孤独のグルメ』の初代チーフ監督の溝口憲司は、《原作の五郎が優しいイメージだったので、逆に松重さんを使ったら面白いだろうなあと思い、彼に依頼しました。/強面のデカい男が、おいしそうにご飯を食べる。その『ギャップ』が松重さんの魅力なんです》と、その起用理由を説明している(※2)。