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2020/02/03

「40分の睡眠負債」を返却するには「毎日14時間ベットに3週間」

 人が生理的に必要とする睡眠量を知るために、健康な8人を14時間、無理矢理ベッドに入れた1990年代の調査がある。実験前の8人の平均的な睡眠時間は7.5時間。彼らに1日中、好きなだけ寝てもらう。

 1日目はみな13時間、2日目もみな13時間近く眠っていた。ところがその後は多く眠ることは無理で、徐々に睡眠時間が短くなり、逆に5時間も6時間もずっとベッドの上で起きているという状態になった。結局、3週間後に睡眠時間は平均8.2時間に固定した。これがこの8人の生理的に必要な睡眠時間だと考えられる。

 

 しかしながら、長い期間、7.5時間の睡眠時間であった彼らは、長い間「毎日40分の睡眠負債」を抱えていたということだ。それが正常な8.2時間に回復するまでに3週間もかかった。つまり、40分の睡眠負債を返そうと思えば、毎日14時間ベッドに入ることを3週間続けなければいけないということだ。ほとんどの債務者はこの事実に気づいていない。

「睡眠負債」は日々の仕事のパフォーマンスを低下させるだけでなく、命に関わる病のリスクを高くすることが次々報告され、さらに「睡眠負債」は2017年の新語・流行語大賞トップ10に選出され、一般にも認識されるにいたった。

日本人は平気で「他人の時間は盗る」

 睡眠不足によってダメージを受けるのは、個人の生活だけではない。大きな視野から見れば、企業や社会に非常に大きな損失となる。たとえば、2016年に発表されたアメリカのシンクタンク、ランド研究所によると、日本における睡眠障害による経済損失の見積は年間最大で15兆円にのぼるとも試算された。

 そこで、睡眠負債を解消するにはどうすれば良いかという課題だが、根本解決は個々人が充分に寝るしかない。時間がないなら睡眠の質を上げて対処しようと、種々の方法が考案されているが、これはあくまで対症療法だ。

©iStock.com

 私は、米国生活が長いので、日本の職場の習慣に驚く事も多い。とにかく会議の時間が長い。たとえば、午後1時からスタートした会議の終わる時間の指定がなく、毎回、4時、5時まで延々とつづく。意見が白熱して長引くというのならわかるが、形式的な発表が続き、なかには発言しない人もいる。発言をしなくても、組織の一員としてその会議に出なければならないような立場で拘束されているのだろう。

 その点、アメリカは能力主義で、達成度を評価する社会ということもあって、個々の時間に対する価値観には鷹揚だ。

 日本は治安もよくて、安全な国。ものが置かれていても盗られることもないし、落としたお金も盗られない。たいへんいい国だと思う。

 一方、日本人は平気で「他人の時間は盗る」――。そんなふうに感じるのは、私だけだろうか?

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