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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『私の知らないわたしの素顔』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

予想外の危険なラブストーリー

2020/01/26

 四十代も九年目で、板についてきた。だから普段は年相応に暮らしているけれど、ときどき急に、二十代ぐらいの気持ちに巻き戻ってしまうときがある。可愛い服をみつけてワクワクしたときとか。あと、最近だと、昔の少年隊をYouTubeで観て「ニッキのダンススキルすっげー! 推せる~~~!」って急に思ったんですよね……。

 ただ、そういうのは白昼夢みたいなもので、ほんの数分で我に返る。

 でも……? もし戻ってこられなくなったら? どうなっちゃうんだろう?

 そうだな。洋服は、本当に着たかったら人目を気にせず着ていいんじゃないか。アイドルも自由に応援していいはず。服は“一人”の、アイドルは“一方向”の愛で、誰のことも困らせる心配はないわけで。つまり、もし戻れなくなっても、それはそれで楽しい日々になりそうだ。

 でも。じゃあ……。“双方向”の場合は……?

©2018 DIAPHANA FILMS-FRANCE 3 CINEMA-SCOPE PICTURES

 さて、この作品は、パリで暮らす五十代の女性を主人公にした、醒めない白昼夢のサスペンス映画なのだ。

 クレールは大学で文学を教える才媛。ある日、SNSで二十代のふりをして、若い男アレックスと親しくなる。嘘によって作りあげられた架空の女性は、純粋なアレックスを振り回すが、若い彼の行動力によって、クレールもまた追い詰められる。危険なラブストーリーは予想外の方向に二転三転して!?

 名優ビノシュの抑えた演技によって、“双方向”の白昼夢に、観客のわたしも巻きこまれていった。冷静さを保っていたはずの彼女が、生身の相手からのレスポンスに翻弄され、バランスを崩す姿の凄絶さ! あぁ、人間って、人間からの刺激によって何をするかわからない、恐い生き物だったんだなぁと痛感しました。

 古き良きフレンチ・ノワールの器に現代的なツールを載せた、手練れの作品。じくじくと楽しめます。

INFORMATION

『私の知らないわたしの素顔』
Bunkamuraル・シネマほかで上映中
http://watashinosugao.com/

出典元

河井夫妻「買収」原資は安倍マネー1億5千万円だった

2020年1月30日号

2020年1月23日 発売

定価440円(税込)

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