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写真家・奥山由之が明かす、大学時代の“星の時間”という原点

アートな土曜日

2020/02/08

 いま最も動向が注目される写真家といえば、奥山由之を措いて他にいない。

 学生だった2012年に写真集「Girl」を刊行してデビュー以来、個展開催や書籍出版が相次ぐ。

 美しくも儚く、繊細で情感豊かな写真は、不思議なほど人の胸を打つ。

 雑誌撮影や広告を手がけることも多く、テレビCMや名だたる音楽家のミュージックビデオなど、映像作品におけるユニークな演出もよく知られる。

 そんな奥山の作品を、いまなら東京渋谷「PARCO MUSEUM TOKYO(パルコミュージアムトーキョー)」で観ることができる。フラワークリエイター篠崎恵美(edenworks)とのコラボレーションでつくり上げた企画展『flowers』が開催中なのだ。

撮影 Kazuo Yoshida

祖母のいた家屋にて

 篠崎が提供した、本来ならば棄てられてしまう花や植物を、奥山が自身のアトリエで撮影したものだ。淡い色調で消え入りそう、なのにたしかな存在感を放つ写真が並ぶのだけれど、特筆すべきはその会場構成である。それぞれの写真が撮られた場所を忠実に模した設えが為され、本物の植物もふんだんに置かれている。

撮影 Kazuo Yoshida
撮影 Kazuo Yoshida

 渋谷のミュージアム内で部分的に再現された奥山由之のアトリエは、実際には閑静な土地に建つ、少々古風な家屋である。じつはそこは、彼の祖母が長らく暮らしていた場所だった。祖母が亡くなったあとに譲り受け、ほぼ手を加えることなく、孫の奥山が使用しているかたちだ。

 奥山の祖母は、こよなく花を愛する人だったという。庭は季節ごと色とりどりの花弁で埋まり、室内もたくさんの切り花で彩られていた。いまよくひとりその家屋=アトリエで過ごす奥山は、姿の見えない祖母と対話するようにして、篠崎から託された花を日々撮り続けている。祖母がいたころの家の記憶に、かたちを与えんとするかのようにして。そして、祖母の生前、なぜもっと言葉を交わし合わなかったのか、という後悔の念を込めて。

撮影 Kazuo Yoshida

 これは奥山の、極めて個人的な事情に端を発する作品かもしれない。けれど、「かつて・そこに・あった」ことを留めておきたいという切実な思いはひしと伝わってきて、観る側の気持ちを澄んだものにさせてくれるのだった。

 奥山の写真はいつもそうだ。写っているのは何気ないものだったり、あるいは何が写っているのだかよくわからないことも多いのに、観者の胸に強く響く。なぜそんなことができるのか。「これをだれかに伝えたい」という思いがいつも明確にあるうえに、それをたしかに届ける術にも長けているからだろう。