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「職業はいくらでもある、沙知代は世界に一人しかいない」

野村 そこで、「サッチーを取ります」と言ったんですね。職業はほかにいくらでもありますけど、沙知代は世界に一人しかいない。それくらい惚れてたんです。

阿川 ようやく本音が出たぞ(笑)。

野村 あと、僕はどう見ても姉さん女房が向いてるんです。性格が弱いから、強い女に憧れたんだろうと思うんです。南海をクビになって、無職で東京に出てきたときも彼女は「なんとかなるわよ?」と言ってくれた。実際、次のチームも決まりましたし。

阿川 サッチーさんが気弱になることはないんですか?

野村 まったくないです。常に強気。

©文藝春秋

阿川 監督と喧嘩したりすることは?

野村 喧嘩したことがないんですよ。こっちが我慢すりゃ済むことだから。「コロンビア大学を出たとか、全部嘘やないか」と言ったときも、「あんたに関係ないでしょーっ!」で、おしまい(笑)。それ以上言ってもしょうがないでしょう。

阿川 小さい頃から、我慢しすぎじゃないですか?

野村 そういうのが身についているんだね。キャッチャーの仕事は我慢のポジションでしょう。「外角低めに来い」と要求しても、まず来ない。とにかく我慢から始まるんです。それでいて、主役はピッチャーだと思ってプレーするわけですから。

「浮気は一度もないんですか?」

阿川 「野村沙知代という人に僕は慣れた」と本の中で述懐されているのがおかしかったです。携帯電話を5個も折られたエピソードも面白かったけど。

野村 携帯電話の件は焼きもちやね。銀座の女性からの営業電話に怒ったの。そのくせ、銀座へ行って深夜1時、2時に帰ってくると、「なに? 帰ってきたの?」と言う。でもその言葉に乗って、浮気でもしたら、なんて言うか……。逆に怖いわな(笑)。

阿川 浮気は一度もないんですか?

野村 ないです。サッチーが怖いというよりモテないのが大きいけど。

1993年セリーグ・中日×ヤクルト戦。試合後選手たちと握手をかわす ©文藝春秋

阿川 なにをおっしゃることやら。

野村 いやあ、銀座の女性はみんな異口同音に「サッチーが怖いから」って(笑)。いい口実ですよね。僕も会社の社長さんのように、銀座では内ポケットから大金を出して「ほらっ」とやってみたい願望はありましたけど、現金は一切持たせてもらえなくてカードしか使えなかった。

阿川 そのエピソードも笑ってしまいました。ある日「こないだベルサーチで買いものしたのね」とサッチーさんに言われて、カードの仕組みをご存じなかった監督は「尾行されてるんじゃないか」と思ったって。

野村 お金のことはすべて任せてましたからね。カードを使用したら明細が届くことも知りませんでした(笑)。相当稼いだはずなんだけど、銀行に行ったことがないから、預金額も知らなければ、実際のお金も見たことがない。