文春オンライン

中国「GDP成長率0%」と人民のイライラ 新型肺炎で終わる「中国スゴイ」の幻想

2020/02/12
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“──畜生! 人類がかぜをひいてほろびるなんて、なんて人を小馬鹿にした結末だ。アーメン”

 こちらは日本SF界の巨匠・小松左京が1964年に発表した『復活の日』に登場する一節だ。イギリス陸軍細菌戦研究所から漏れた新型ウイルス「MM-88」が全世界に拡大する物語を描いた名作である。

「MM-88」は3月ごろから世界に広まり、当初は「チベットかぜ」という新型インフルエンザだと思われていたが、強力な感染力と高い致死率、完治後も再発する、発熱症状がない者も突然コロリと死亡する――といった特徴を持っていた。やがて5月下旬にソ連首相が病死したころから、各国の医療体制やインフラの崩壊がはじまる。

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 日本でも6月中旬から主要交通網や電気・水道網が寸断され、同月末には日本国民の8割が死亡する。事態の悪化は止まらず、7月第3週には大統領を含めたホワイトハウスのスタッフが全滅してアメリカ合衆国が崩壊。そして9月上旬までに、南極の基地にいた約1万人をのぞいて、全人類と陸上哺乳類の大部分が死滅してしまう。

小松左京『復活の日』(角川文庫)。現在はkindleでも読めるので、未読の方には一読を勧める。映画版のほうはお好み次第で。

新型コロナウイルスが「ウイルス研究所から流出」というデマ

 良質なパニック小説を読むと、大事件が起きたときに大局的な視点を保つ訓練ができる。ゆえに『復活の日』は私の座右の書のひとつで、過去にもSARS(2003年)やH1N1インフルエンザ(2009年)の流行のたびに読み返してきた。もちろん現在も再読中である。

 2019年12月に中国武漢市で発生した新型コロナウイルスCOVID-19(2019-nCoV)も、都市封鎖にともなう中国国内の深刻な混乱を招いている。ほぼ陰謀論とみていい話とはいえ、今回はウイルスが中国武漢市のウイルス研究所から流出したというデマも流れている。過去の再読時と比較しても、『復活の日』の内容にかなりのリアリティを感じる事態だ。

 人類にとってさいわいなことに、今回の新型コロナウイルスCOVID-19は『復活の日』のMM-88と違って、各報道を読む限りは致死率が2%程度にとどまる。おそらく今年夏までに、ウイルスの流行自体も収束するだろう。

 ただし、ウイルス禍が今後の中国社会に与える影響は甚大だ。今回の記事では、主に庶民層の動きと政治的な事情についてまとめつつ、今後の見通しを考察してみたい。

SARS当時よりも「のんき」に見えた庶民層

 新型コロナウイルスの流行は、昨年12月の時点から中国に詳しい外国人の間では知られていた。ただ、多くの中国人が深刻になるのは、1月20日に習近平が「重要指示」を出して情報公開にゴーサインを出し、さらに同月23日に武漢市が封鎖されてからである。