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シンプルでもこれほどリアルに描けるのはなぜか――ある画家の何気ない「描き方」

アートな土曜日

2020/02/15
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 この部屋は、なんて温かそうなのだろう。食卓に置かれる食べものは、なんておいしそうなんだろう。絵を観ていて、かくも視覚以外の感覚を刺激されることって、なかなかない。

 そんな展示をいまなら、東京オペラシティ アートギャラリー内で観ることができる。「project N 78 今井麗」展だ。

山型食パン 2019

わずかな筆致で親密さまで表す

 今井麗は1982年生まれの画家。父が画家だったこともあり、小さいころから描くことが大好きだった。美大へと進学し、卒業後に絵を描くことを生業とした。

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 描くものは一貫していて、静物画が中心。アボカド、ジャガイモ、タマネギ、トースト、透明な袋に入ったままの食パン、ウルトラマン怪獣のフィギュア、クマやサルのぬいぐるみ……。モチーフは、食べものがかなり多めだ。

アボカド 2019

 そこらに転がっていそうな、何の変哲のないものを、今井麗は伸び伸びとした素直な筆致で、次々と絵に仕立てていく。

 よく整理された画面構成を持ち、モノ一つひとつの描き出し方はあまりにもシンプルで、それはもう清々しさすら漂うほど。よくこれほどわずかな筆致で、ものの形態や質感を表すことができるものだと感心してしまう。

ポムドデール 2019(左)、玉ねぎ 2019(右)

 しかも今井の絵の場合、「温かそう」「おいしそう」といった親密な感覚まで観る側に呼び起こさせるのだから、まるで魔法みたいに思えてしまう。