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ヤクルトに加入の嶋基宏 中村悠平との終わらない“切磋琢磨”

文春野球コラム ウィンターリーグ2019-2020

2020/02/21
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 真新しいストライプのホームユニフォーム。 2月1日。キャンプ初日の嶋基宏は、少し緊張した様子が見えたものの、新しいチームメイトと明るく笑い合う姿が見られた。「ヤクルト嶋」の始まりだ。

 初のブルペンには報道陣も殺到し、特に捕手側は隙間からしか見えなかった。

 嶋の防具といえば楽天の臙脂色しか思い浮かばないが、ヤクルトの捕手の防具は紺・赤・白のトリコロール、紺と白、深緑など様々だ。嶋はどんな色にしたのか楽しみに見ていると、ピカピカの防具は、紺を基調にしてグリーンのラインが入っていた。白が基調のホームユニにも合うし、現在のビジターユニの配色と同じだから、ビジターにもしっくりくるだろう。

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ブルペンでの嶋基宏 ©HISATO

近くで見ていて圧倒された嶋の熱意と存在感

 言わずとしれた、名捕手だ。ベストナイン、ゴールデングラブ賞、ベストバッテリー賞、侍の正捕手。持って生まれた頭脳と人柄、キャプテンシーは言うに及ばず。野村克也元監督から直に正捕手としての薫陶を受け、選手からもファンからも絶大な信頼を得ていた嶋基宏。本来なら楽天で選手生命を全うすべき選手であり、楽天の財産だと思っていた。

 ヤクルトのユニフォームを着て、ヤクルトカラーの防具を着け、ヤクルトの投手の球を受ける段になっても、まだ嶋がいることが信じられない。そんな心持ちの人は多かっただろう。昨年崩壊した投手陣を良い状態へ導き、捕手陣に刺激を与えてレベルアップさせ、いずれは指導者として……。そんな考えは誰しも持つが、出場機会を求めて愛着ある古巣から移籍してきた選手だ。新しい応援歌にも「底力」を謳われる嶋基宏だ。すぐに「肥やし」になる気などさらさらない。

 3日間近くで見ただけでも、その熱意と存在感に圧倒された。まず声を出す。捕手は皆いい声を出すのだけれども、嶋の声は一段とよく響く。腹から出す声だ。そしてよく笑う。人を笑顔にもする。こんなところも嶋の魅力なのだろう。そういえば公開された自主トレの様子でも、嶋が声を出し盛り上げる様子が伝えられた。明るさと気配り。コミュニケーション力。望んで弟子入りしたソフトバンクの甲斐拓也が「自然とこちらも笑顔になって、ついていこうという気持ちになる」と言っていた。

よく声を出し、よく笑う ©HISATO

 2月3日の全体練習後、メニュー表の捕手特守には古賀優大の名前しかなかったのだが、中村悠平と嶋も一緒にやっていた。21歳の古賀は中村と一緒に自主トレもしているし、物怖じしない性格ではあるが、この二人と一緒というのは相当なプレッシャーだっただろう。嶋は声を出して煽る。中村も気合いが入っている。

 捕手練習はひたすらきつい。しゃがんだ体勢から横移動したり、素早く送球ポジションを作ったり。動作を反復する姿は苦し気だが、嶋から「ほらハイになるぞ! 気持ちいいだろ!」「殻破って来い!」と大声で煽られたら、古賀は死ぬ気でやって殻を破るしかない。

 一回り以上若い古賀には「今頑張れば15年出来る!」と声をかける嶋だが、中村には「お前はあんまり頑張らんでいい(笑)」「お前にはまだ教えん」と不敵に笑い、ライバル意識を見せる。今までの捕手陣には、なかなかこういう雰囲気はなかった。実績充分のベテラン捕手の移籍。いきなり現れた高いハードル。それでも嶋と中村が仲良く談笑している様子が随所で見られた。いいライバルなのだ。

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