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連載近田春夫の考えるヒット

日向坂46 アイドルたちに“僕”を歌わせる秋元康の思惑――近田春夫の考えるヒット

2020/03/21

『ソンナコトナイヨ』(日向坂46)/『STAYIN' ALIVE』(JUJU)

絵=安斎肇

 アイドルのプロデュースに何より求められるもののひとつが、対象となる購買層/ファンの共感を如何にして得るか(という仕事の能力/センス)であることには、異論もないだろう。

 昔、ジャニーさんの心の奥底には、永遠の少女が棲んでいるのだと直観したことがあった。そこで重要なのは、その“永遠の少女”には、自分が素敵だと思う男の子は、必ず自分以外の女の子たちもきっと同じように好きになる! という確信があるというのか、天才的な第六感が備わっているに違いないということで、そのあったればこそ、ジャニーズは他の事務所と一線を画すことが出来るのだと。かつて私はそう確信をしたものだ。

ソンナコトナイヨ/日向坂46(SONY)作詞:秋元康、作曲:柳沢英樹。元欅坂のアンダーグループが、改名独立。本作で4枚目。

 似たような資質が秋元康にもあるのかも知れないなぁ、と思ったりしていた。ただそのハートのなかに棲むのは、ジャニーさんのとは違うキャラだとは思うが……(笑)。

 ところで前々から秋元康は、女の子たちに、一人称“僕”の歌詞をあてがうことを、よくしてきた。勿論、商品戦略上、買手が基本的に男性層ゆえ、歌詞に感情移入させやすいから、という事情はあるだろうが、何かこの秋元式作詞のスタイル/マナーには、ごく微かにではあるのだが、倒錯の匂いがしないでもない。

 すなわち、一連の歌詞に登場する“僕”のキャラクターイメージは、ほぼ同一といって無理な話ではないと思うし、そしてまた、その像と秋元康とを重ねてしまうのも決して不自然なことではあるまい。果たして女の子たちが“僕”と歌う時、一体どんな“僕”を心に浮かべて歌っているのか。誰かそのあたり、彼女たちに取材のときに質問でもしてくれないかなぁ? そこんとこ結構好奇心あるのよ、俺。

 彼女たちとの絶対的な力関係に頼んで、ちょっと他の人にはマネ出来ないことを、秋元康はやってる気がしないでもない? とかなんとか……。ま、倒錯は大袈裟だったにしても、秋元康の心に棲む何かが、アイドルたちに“僕”を歌わせるプレイ(!)を、大変に好んでいるのだけは間違いないと思う。

 そしてまた、共感ということでは、ファンの坊やちゃんたちも、そこは恐らく同じ趣味なんだろうねぇ(笑)多分。

 と、ここまで書いてきて急にナニだが、申し訳ない。新曲の歌詞を読み返すと、やっぱ秋元康はジャニーさんとは違うのかなと。この作詞家はあくまで冷徹にマーケットを眺め、分析をし、判断を下す、いわば“相場を張るような感覚”で仕事をしていると考えた方が自然な気もしてきた。

 そう判断したきっかけは、歌詞に奈良美智という個人名が出てきたことで、勿論それはストーリーの必然ではあるにせよ、村上隆でも、会田誠でもなく、奈良美智という。これはファン層の体質/嗜好を見据えた“読み”以外の何物でもないだろうと……。

STAYIN' ALIVE/JUJU(SONY)作詞:磯貝サイモン、作曲:湯原聡史。ドラマ「トップナイフ―天才脳外科医の条件―」主題歌。

 JUJU。

 jpopには稀有な、厚化粧の似合う(褒め言葉です)シンガーになりつつあるね。

今週の告知「コロナウィルスで自粛自粛のご時世だからどうなるか分からないけど、3月18日(水)に、音楽ジャーナリストの吉岡正晴さんのトークショウにゲストとしてでるよ。場所は新宿のカブキラウンジ」と近田春夫氏。「彼は学校で2コ下にあたるんだけど、学生時代からソウルミュージック好きな男。無事開催されるようだったら、よろしく!」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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