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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『1917 命をかけた伝令』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

奇妙な感覚

2020/03/21

 新型コロナウイルスの流行で、先月後半からわたしもマスク生活を続けている。不要不急の外出は控えるようにとのことで、コンサートや演劇が中止になり、また美術館の多くも閉まっている。映画も、映画館が休館になったり、作品によっては公開延期だ。

 世界各国が日本からの入国制限などを決めつつある。日本も幾つかの国からの入国を制限した。

 今月に入り、わたしにはある奇妙な感覚が芽生え始めた。人と会う時、相手が友人やいつものお店の店員さん、常連さんなど、もともと知ってる人だとリラックスしている。一方、知らない人が近くにくると、なぜか緊張する。自分が知らない人側になったときも、そうで、勢い、前から親しい人と会ったり、よく知るお店に行くほうが気楽になった。

 先日美容院に行ったら、美容師さんも「うちは常連ばかりだから大丈夫よ」と言った。わたしも思わず頷いた。

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 でも、この感覚に医学的な根拠はないのだ。

 普段あれだけ正論を吐いてるくせに、いざパンデミックの不安の真ん中に立つと、非論理的で排他的な人間になってしまうのか。こんなふうにして、自分も分断や差別の問題の当事者、加害者になっていくのだろうか? 何よりそれが怖ろしい……。さいきんそんなことを考えています。

 一月以上前に観たこの戦争映画の、恐怖や不安にまみれたたくさんのシーンをいま改めて思いだすと、観た日とは異なる感想が胸にどんどん生まれます。味方の壕を出て最前線に向かうイギリス兵士の激しい不安。隠れ家に敵兵も逃げこんできたときの民間人女性の絶望。何より、親切に助けてくれた敵兵をパニックに陥って刺し殺してしまったドイツ兵の、恐怖と嫌悪と憎悪が入り混じる混乱した思いが、観たときは謎だったのに今ではよくわかる気がして、そのことにも深く考えこんでしまいました。

INFORMATION

『1917 命をかけた伝令』
全国公開中
https://1917-movie.jp/

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