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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『フェアウェル』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

大変化した“がん告知”

2020/03/29

 昭和、平成、令和と生きて、“歴史の生き証人”になってきた。昔はスタバがなかったとか、自動車はマニュアルでギアをガチャガチャやってたし窓も手動で開けたんだぜとか、小中学校の調理実習は女子だけだったとか。文化や技術など様々なことが時代によって変化したのを、身をもって知っている。

 中でも……“がん患者への告知”は大きく変わった。昔は、死の恐怖から救うために本人には隠すことが多かった。少なくとも九〇年代まではそうだったように、わたしは思う。

 で、さて。この映画は、若い中国系アメリカ人女性が祖母の病と対峙する、社会派ファミリードラマなのだ……。

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 ビリーはN.Y.で暮らす三十歳の女性。ある日、中国東北部に住む祖母が肺がんで余命三ヶ月だと知らされる。祖母に病のことを隠しつつ、一族が自然に集まるため、急遽、従兄弟が交際三ヶ月(!)の恋人と結婚式を挙げることに。

 ビリーはそのやり方に反対しつつも、海を渡る。集まった一族の意見も分かれ、アメリカ暮らしの長い父は「アメリカでは告知しないのは違法だ!」と、一族を継ぐ伯父は「西洋と東洋はちがう! 東洋では人間は全体の一部だ……。だから死にゆく苦しみや悲しみを一人で背負わなくてすむ。母の重荷を肩代わりするのが息子の義務。母もかつて、病を得た父の苦しみを肩代わりしていた」と主張する。

 でもその伯父が、祖母の前では最も動揺して家族をハラハラさせたり、ビリーが診断書を隠すために奔走するなど、それぞれの揺らぎが胸に強く迫る。わたしはこの作品を観ながら、二つの道の片方が正解で片方が不正解なんじゃなく、どちらともいえぬ“あわい”があることを知ったのが、ビリーと同じ齢の頃だったと、しみじみ思い返しました。

 ビリーを演じるオークワフィナ(ラッパーとしても活動)の静かな存在感も最高です。

INFORMATION

『フェアウェル』
4月10日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
http://farewell-movie.com/

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