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「描くことに捧げた生涯」個性派絵師・伊藤若冲は“駆け出し時代”からスゴかった

アートな土曜日

2020/03/28

 昨年10月のこと。京都・嵐山、渡月橋のたもとに、新しい美術館が開かれた。名を福田美術館という。

 時節柄、いま現在は勢いが小休止ではあるが、平常であれば京都には国内外から多くの人が押し寄せる。訪れる人はみな、彼の地に日本ならではの美を求めている。ならば数多の寺院建築、庭園、仏像などにくわえて、絵画作品もじっくりと味わってもらう場をつくろうではないか。そんな気概のもとで新設されたのがこの美術館である。

京都・渡月橋のたもとでオープンした福田美術館

 同館が収蔵するのは、江戸時代から近代にかけての日本画コレクション約1500点。それらを活用しながら展開される展示は、京都ゆかりの作者・作品をしっかり観せることと、美術に特別詳しくなくても色、かたち、テーマ、物語などから誰もが楽しんで鑑賞できるものにすることに、心が砕かれている。

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曾我蕭白「寒山拾得図」

 現在観られる展示は、館のコンセプトにまことぴったりのものだ。「若冲誕生~葛藤の向こうがわ~」展。

自身の理想とする絵画の実現に邁進した、初期から晩年まで

 若冲とは、このところ人気が高まりっぱなしな絵師、伊藤若冲のことである。

 京都錦小路の青物問屋「枡屋」の長男として生を享け、23歳で家業を継承。その傍らで絵を描きはじめ、40歳を機に家督を実弟に譲り、芸術の道に専心せんと決めたのが若冲だった。

伊藤若冲「鯉魚図」左幅
伊藤若冲「鯉魚図」右幅

 人並み外れた集中力で、画業の進境は著しく、あっという間に実力・人気とも京の都を代表する存在となった。類まれな観察眼と豊富なイマジネーションを交互に駆使して、独自の創意に達する画風は、オリジナリティが際立つ。動植物の図柄が30幅にわたって連なる大作《動植綵絵》は、京都・相国寺に寄進された。水墨画も無数に手がけ、自在な運筆であらゆるものを生命感たっぷりに描き出した。

 85歳で没するまで、自身の理想とする絵画の実現に邁進した若冲の、初期から晩年までの作品としっかり対面できるのが同展となる。