文春オンライン
文春野球コラム

1995年の吉井理人 ノムさんに“雷嫌い”をバラされたあの日

文春野球コラム2020 90年代のプロ野球を語ろう

2020/03/30
note

 雷が嫌いな吉井理人(現千葉ロッテマリーンズ一軍投手コーチ)。そのイメージは、いつしか野球ファンの間で定番化した。キッカケとなったのは近鉄バファローズからトレードでヤクルトスワローズに移籍をした95年の試合である。

「雷嫌いの吉井」が定着したあの日

 8月6日、神宮球場での広島カープ戦。それまで14回に先発し8勝3敗(2完封)とこれまでにない順調なシーズンとなっていた。しかし、この日は試合前から嫌な予感が漂う。異常な湿気と蒸し暑さ。初回は無失点で切り抜けるも2回に1失点。そして悪夢は3回に訪れた。ピンチを背負い、セットポジションから投げようとすると、三塁側スタンド空の上から大きな光が走った。刹那、なんとも言えぬ寒気を感じた。

「本当はそれを言い訳にはしたくはないけどね。だって調子も悪かったから。でも目の前で稲光が見えた。音はなかったから、きっと遠くの方で起きたのだと思うけど、そこから気になって集中できなくなった」

ADVERTISEMENT

 この回、5番の金本知憲に左越え3ランを打たれると、その後、3者連続四球から9番の近藤芳久に2点タイムリー。さらに3連続四球を与えると、ここでKOとなった。次のマウンドを託されたブロスが走者をすべて帰し、結果的に2回3分の2を投げて8失点の悪夢。ベンチに戻ってきた際に「雷が気になってしまって……」とチームメートに発した言葉を野村克也監督は聞き逃していなかった。試合後、乱調の理由を記者団に聞かれると「アイツ、雷が怖いらしいわ」とボヤいた。スポーツメディアからすると、こんなに面白い事はない。SNSが発展していなかった時代にも関らず、報道を通じてイッキに拡散。「雷嫌いの吉井」が定着した。

「今でも投手陣から『吉井さんは雷がなったら、マウンドに来てくれない』と言われるぐらいやからなあ。凄い話やなあ」と現在マリーンズの一軍投手コーチとして指導にあたる吉井は苦笑いを浮かべる。実際、気になり集中できなかったのは事実だが雷はそこまでは怖くはない。「建物の中の窓から見る雷は結構好きで見てしまうよ」と話す。

 ただその後も何度か雷の恐怖を味わった。メジャー移籍後の事だ。一つはフィラデルフィアからピッツバーグに飛行機で移動した時。悪天候の中のフライトで窓の外を見ると稲光が至る所で光っていた。するとそのうちの一つが飛行機の翼に落ちた。ものすごい揺れを経験した。ニューヨークでも試合中、冷たい風を感じると雷の音がした。「調子が良かっただけに残念だった」と振り返るが、ここで試合が中断となり降板となった。5分後にはひょうが降ってきた。今となると懐かしい思い出だ。

文春野球学校開講!