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【志村けんさん逝去】朝ドラ新作「エール」では主人公の憧れ・山田耕筰モデルの役を……

2020/03/30
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 新型コロナウイルスによる重度の肺炎を患い入院中だった志村けんさんが、3月29日夜に亡くなった。享年70。NHK連続テレビ小説「エール」で志村さんは、作曲家・山田耕筰がモデルの役を演じ、4月下旬から登場する予定だったという。

 主人公のモデル、古関裕而は山田耕筰を崇拝し、かつ妻となる金子へのラブレターへ「山田耕作氏を抜かうと思つてます」とも書いている。古関と山田に何があったのか。穏やかな人柄だったという古関が、内に秘めていた激しい内面とは。(初出:2020/3/19)

志村けんさん

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 窪田正孝と二階堂ふみの配役で話題になっている、3月30日スタートのNHK連続テレビ小説「エール」。昭和を代表する大作曲家の古関裕而とその妻・金子(きんこ)が主人公のモデルだが、その人となりはあまり知られていない。

 とくに相対的に無名の金子はそうだろう。作曲家の夫を支えた良妻賢母? それとも、売れない時代も苦労をともにした糟糠の妻? いや、金子はそんな型にはまらない“豪傑”だった。『古関裕而の昭和史』を上梓したばかりの筆者が、その知られざるエピソードを紹介したい。

窪田正孝 ©AFLO

株取引に熱中して「株は芸術なり」

「株やってると生き甲斐を感じますわね。株やらない人は、なんだかバカにみえて……(笑声)」

 金子は、1959年元旦付の『日本証券新聞』でこう発言している。なんと彼女は戦後、「失敗はほとんどありません」と豪語するほど株取引にのめり込み、金融メディアで「百戦錬磨の利殖マダム」と呼ばれていたのである。

 1960年代初頭には、各種の投資情報に目を通し、週4回のペースで山一證券の渋谷支店に通っていたという。「慾ばらないで、一応目標額に来たら、確実に利喰う」と運用法を披露し、「確実なものとしては東芝、三菱造船」などと有望株を紹介する姿は、まさに玄人はだしだった。

「百戦錬磨の利殖マダム」時代の金子。古関正裕氏提供。

 もっとも、金子はもともと声楽家を目指していた。そのため、芸術にくらべて株など「なんとなく下俗」に思っていた時期もあった。だが、転がり込む利益の前に、そんな思いも吹き飛んでしまった。

 だからこそ、ついにこんな発言まで飛び出した。

「自分が楽しんでいますこの頃では、“株は芸術なり”と云って憚りません」

 このハッキリした性格は、見ていて気持ちがいい。

 良妻賢母、糟糠の妻のキャラクターはもうやり尽くされた。今年は2020年。朝ドラでもぜひ、“トレーダー金子”の旺盛な活躍ぶりを再現してもらいたいものである。