「正直にやったらやったと言え」。拘置所に面会に来た父は、自分
「週刊文春」3月26日号で、
小学6年生の娘を保険金目当てで焼き殺したとして、
しかし、かわいい盛りだった8歳の息子は見知らぬ大人の男に。
「まるでタイムスリップしたよう」と語る彼女の人生を通して「
(前後編の前編/後編を読む)
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知らせに来たのは顔見知りの刑事
夫婦二人で暮らす家に顔見知りの刑事がやってきた。
「お孫さんが亡くなった火事、あれは実は娘さんが火を付けて殺したんです」
ええ~っ、保険金目当てに自宅に放火して自分の娘を殺した!? そんな……驚愕の醒めぬうちに刑事は続けた。
「明日娘さん夫婦を逮捕します」
これは25年前、大阪市に住む寺西平造さん(当時65歳)の身に実際に起きたこと。逮捕された娘とは青木惠子さん(当時31歳)。東住吉事件として世に名高い冤罪の当事者だ。
1995年(平成7年)大阪市東住吉区の青木惠子さん宅から火が出て全焼。娘のめぐみさん(当時11歳)が亡くなった。警察は惠子さんと内縁の夫Bさんによる保険金目当ての放火殺人として二人を逮捕。二人は無実を訴えたが無期懲役の判決で服役。だが弁護団の粘り強い調査で再審=裁判のやり直しが決定。2015年、20年ぶりに釈放、後に無罪となった事件である。
串カツ屋で聞いた90歳実父の思い
20年の時を経て娘が釈放された時は86歳。そして今や90歳だ。さすがに一人暮らしは心配だからと、大阪市内の高齢者向け住宅で暮らしている。持病はあるが足腰は比較的しっかりしている。認知症の症状もほとんどない。昼食は近くの商店街で自分で買ってくるし、洗濯も自分でしている。
娘の逮捕、有罪、そして再審での無罪。平造さんはどう受けとめてきたのか? 私は平造さんと娘の惠子さんを近くの串カツ屋に誘い、話を聞くことにした。
酒好きだったという平造さん。最初に頼んだ日本酒の熱燗1合をすぐに飲み干し、ビール、酎ハイと頼んでいく。呑み助は今も健在だ。話も進む。
「この辺にはワシが建てた家がなんぼもあるんや」
そう語る平造さんは腕の立つ大工だったという。仕事が丁寧と評判で得意先が多く、工務店の経営は順調だった。
おかげで暮らしにはゆとりがあったが、娘の惠子さんは父親の平造さんと折り合いが良くなかった。高校生の時から「卒業したら家を出よう」と密かに決め、アルバイトで資金を貯めていた。実際に高校卒業後、「家を出たい」と告げると平造さんは「勝手にせえ」と返したという。