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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『薬の神じゃない!』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

中国発社会派コメディ

2020/04/19

 荒(すさ)んだ顔をした不良少年が、雨に濡れる子犬をみつけ、たまらず拾いあげる……といった物語の始まり方は、いつから王道になったのだろう?

 ハリウッド映画でも、酒浸りの元海兵隊員が、天変地異に直面し、たまらず地球の危機を救うため立ちあがる……といった展開が多く、どうしたって胸が熱くなる。

 さて、この映画は、ジェネリック薬の密輸戦争を描く、実話をもとにした中国発の社会派スラップスティック・コメディなのだ。

 程勇は妻子と別れ、強壮剤の輸入業で細々と暮らしている。あるとき儲かると聞き、インド製の白血病のジェネリック薬の密輸に手を染めた。すると中国中から貧しい患者が集まってきた。大手製薬会社が独占販売する正規薬は法外な値段。家や土地を売り、路頭に迷う患者も多くいた。程勇は段々、危険を冒して密輸を続けるようになり、値段も自分の儲けが出ないほど下げ……。

 長らく荒んだ生活を送る程勇が、自分を犠牲にして人を助けることで人間らしさを取り戻していく過程が丁寧に描かれ、観ながら泣いたり笑ったりと感情が揺さぶられました。患者さんたちは免疫機能が落ちているためマスクをしており、ずらりと並ぶマスク姿の顔、顔、顔も胸に迫ります。こういう“普通の人があるきっかけで聖人になっていく”物語がわたしは本当に大好きなのですが、その割に自分では書かないのはなぜだろう、とふと気づいたりも。

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 三五歳の若手監督の長編デビュー作で、中国で大ヒット。俳優もみんな惚れ惚れするほど人間臭くて巧みです。ラスト近くでは、死んでいる人がみんな表情だけで死者とわかる顔で微笑しており、息を止めて観入りました。

 新型コロナウイルスの流行で、中国も大変なことになったので、生き生きと出演していたこの人たちは無事だろうかと、そんなことも考えながら観終わりました。

INFORMATION

『薬の神じゃない!』
※10月に公開延期。今後の予定は公式サイトでご確認ください。
http://www.kusurikami.com

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