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SDGs特集 会津若松市のスマートシティから今、日本人が学ぶべきこと

2020/05/21

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2015年の国連サミットで採択されたSDGs。持続可能な世界を実現するために、貧困や環境などさまざまな分野で課題解決をめざす、世界共通の目標だ。そして日本では、地方創生と密接に関わっている。

地方創生とSDGsを連動させる取り組み

関 幸子(ローカルファースト研究所代表・東洋大学大学院客員教授)
三鷹市役所、株式会社まちづくり三鷹で地方行政に、内閣府企業再生支援機構担当室政策企画調査官(非常勤)として地域再生にも携わる。地域産業政策、地域資源を使って新しい産業を創出する専門家。内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員
関 幸子(ローカルファースト研究所代表・東洋大学大学院客員教授)
三鷹市役所、株式会社まちづくり三鷹で地方行政に、内閣府企業再生支援機構担当室政策企画調査官(非常勤)として地域再生にも携わる。地域産業政策、地域資源を使って新しい産業を創出する専門家。内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員

 日本のSDGs推進の特徴は、地方創生と連動させている点にある。地方創生の文脈から見れば、SDGsにより経済・社会・環境の好循環を達成することは、仕事があって若者が地域に定住し、結婚、出産の夢をかなえられる社会であり、地方創生の実現そのものであるからだ。こうしたなかで、福島県会津若松市は、東日本大震災からの復興と地方創生を土台としてスマートシティを掲げ、持続可能なSDGs社会の形成に挑戦中だ。その最前線をご紹介しよう。

 鶴ヶ城から5分の場所に真新しい都会的でモダンなオフィスがある。昨年4月にオープンしたICTオフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」だ。地方創生拠点整備交付金等を使い、会津若松市と地元企業が官民連携PPP手法により約24億円で整備したオフィスだ。環境にも配慮し、消費電力は再生可能エネルギーで賄われている。このAiCTには、アクセンチュアの250名規模を筆頭に三菱商事等のICT関連企業21社が東京から入居し、最終的には500名規模になるという。

昨年4月にオープンしたICTオフィス「スマートシティAiCT」の外観。すでにICT関連企業21社が入居している。
昨年4月にオープンしたICTオフィス「スマートシティAiCT」の外観。すでにICT関連企業21社が入居している。

 会津若松市がスマートシティに取り組むきっかけは、東日本大震災の後に、支援に入ったアクセンチュアとIT人材に特化した県立会津大学との三者協定を結んだところから始まる。2012年には、「会津若松スマートシティ推進協議会(現会津地域スマートシティ推進協議会)」を設立し、産業振興と雇用創出に着手。会津地域をテストフィールドと見立て、人材やデータが集積するプラットフォームとして再定義し、市とともに様々な企業が地域データを活用してeガバメント、高齢化対策や観光産業振興に向け実証実験に取り組んできた。

 その基盤となるのがオープン、フラット、シェア、ヒューマンセントリック(人が主体)となるプラットフォームの運営方針と地域資源をコネクティッド=つなげ、イノベーションを促進させる戦略である。スマートシティの中心を担うのは、東京から来た大手企業ではなく地元の中小企業である点も大きな特徴である。

AiCT内観。官民学の連携の場、人材育成の場として、会津地域の活性化のハブになることが期待されている。
AiCT内観。官民学の連携の場、人材育成の場として、会津地域の活性化のハブになることが期待されている。

 会津若松市のスマートシティを支える最大の要素は、一つの分野に限定せず、健康、教育、防災、交通等の様々な分野でICTをツールとして活用するとともに、市民がこの8年間の実証実験から、データ提供が自分にも地域社会にも大きな恩恵があると学び、データの重要性を理解し、個人情報をプラットフォームに提供していることにある。もちろん、事前に利用目的を明示し、市民の同意を得るオプトイン型を原則としている。

 さらにデータを市役所や一企業が独占するのではなく、地域が共通で利用できるように管理し、どの企業でも一定のルールの下でデータを使うことが可能だ。

会津若松市長・室井照平氏◎昭和30年生まれ。会津若松市議会議員、福島県議会議員を経て、平成23年会津若松市長に当選。現在3期目。
会津若松市長・室井照平氏◎昭和30年生まれ。会津若松市議会議員、福島県議会議員を経て、平成23年会津若松市長に当選。現在3期目。

 室井照平市長は「市民が生活の身近なところでICTの恩恵を実感できる取り組みを積極的に行ってきた。会津若松+(プラス)による地域情報の提供をはじめ、農業・観光分野でのICT活用により、売上向上や観光客数が増加するなどの成果も生まれ、徐々に市民の信頼を得てきた。この動きは、2019年のG20大阪サミットで、安倍首相が提唱したDFFT(Data Free Flow with Trust)に即したもので、データのルール化等、信頼ある自由なデータの流通に貢献したい。多くの企業に、社会実験フィールドを持つ会津に来て欲しい」とデータ活用に意欲的だ。

スマートシティからSDGsシティへ

 会津大学は、イギリスの教育専門誌Times Higher Educationの「THE世界大学ランキング日本版2020」で24位に選ばれる程、高い評価を得ている。アクセンチュアは、8年前からこの会津大学で寄付講座を行い、コンピュータサイエンスを学ぶ学生が同時にデータサイエンスを学ぶ機会を提供してきた。データを社会の中でどのように活用すべきか判断できる本物のデータサイエンティストを育てるのが目的だ。卒業生のAiCT入居企業への就職も始まり、ようやく貴重な高度人材の流出に歯止めがかかり、地元での仕事の幅が広がってきた。

 アクセンチュア・イノベーションセンター福島のセンター長の中村彰二朗氏は「日本の生産性の低さは、地方企業の生産性が伸び悩んでいることによる。東京はすでに飽和状態だが、地方はまだ伸びしろがあり、デジタル化、人工知能(AI)やロボットプロセスオートメーション(RPA)の導入で生産性をさらに向上でき、その源はデータとデジタル化にある」と断言する。

中村彰二朗氏◎アクセンチュア・イノベーションセンター福島センター長。「3・11」以降、東日本の復興および地方創生を実現するために、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。
中村彰二朗氏◎アクセンチュア・イノベーションセンター福島センター長。「3・11」以降、東日本の復興および地方創生を実現するために、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

 地方創生が求める地域雇用の創出と若者の定住は、SDGsが目指す持続可能な社会実現への第一歩である。会津若松市は、スマートシティの推進により、若者の流出を止めただけでなく、東京から企業21社、400人を超える従業員を誘致し、持続可能なSDGs都市へと転換し始めている。加えて、地域交通の新体系化、フードロスを農業生産現場から見直す予定等、環境面からもアプローチし、SDGsの経済、社会、環境の3側面の好循環を作り出そうとしている。企業が分散立地し、従業員と共に、定住化する会津若松モデルは、SDGs推進の好事例となり、他地域からも大きく注目されている。

photograph:Shiro Miyake

出典元

黒川弘務検事長は接待賭けマージャン常習犯

2020年5月28日号

2020年5月21日 発売

定価440円(税込)