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連載春日太一の木曜邦画劇場

喜劇と思ったら反戦映画 戦場に響く極道の絶叫!――春日太一の木曜邦画劇場

『兵隊極道』

2020/04/28
note
1968年作品(91分)/東映/AmazonPrime配信

 前回に引き続き、外出自粛中に自宅で気軽に楽しめる作品として、若山富三郎主演「極道」シリーズを紹介したい。

 DVDは出ていないが配信でかなりの本数を観ることができるこのシリーズは、「バイオレンス・ヤクザ・喜劇」という奇跡的な組み合わせを成し遂げており、若山ら極道ファミリーによる作品ごとにバラエティに富んだ野放図な活躍を楽しむことができる。

 毎回何が飛び出すか分からない。それが最大の魅力だ。

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 今回取り上げるシリーズ第三作『兵隊極道』も、全く読めない一本である。

 舞台になるのは、日中戦争における中国戦線。あれ、この前は現代劇だったような――と思われるかもしれないが、細かいことは気にしない。島村(若山)が山城新伍とそこにいれば、それはもう「極道」なのだ。

「兵隊」と「極道」という組み合わせでいうと、若山の実弟である勝新太郎の人気シリーズ「兵隊やくざ」を思い浮かべる人もいるだろう。実際、パロディ的な洒落っ気で作られた作品でもある。

 召集により兵役に勤しむことになった島村が、行く先々で上官や上等兵の理不尽に反抗して懲罰を受け続ける。それでもひるまず、ひたすら暴れる――という展開は「兵隊やくざ」での勝と全く同じだ。

 が、気軽なパロディ作品と思って油断していると、後半に待ち受ける思わぬ展開に驚かされることになる。

 島村は陸軍の監獄に入れられ、そこで同じくアウトローであるがために軍に馴染めないゴロツキたちと意気投合する。そんな彼らに、軍上層部は危険地帯での輸送任務を命じる。「あんな奴らは殺した方がお国のためだ」という捨て駒扱いなのだが、「任務を遂行すれば無罪放免」という言葉に踊らされた島村たちは意気揚々と参加。そして、中国軍の凄まじい攻撃により、次々と命を落としていく。

 前半の喜劇が楽しいだけに、そのギャップにより後半の展開がより際立つ。無力感の中で島村も空しく絶叫するのみ。任務を終えても達成感はなく、疲れ果てた表情を見せていた。

 特に印象的なのは、島村と行動を共にする酒巻(名和宏)。内地では島村と抗争する組の代貸だっただけに、前半はことあるごとに島村と対立して悪役として立ちはだかる。

 が、後半は様相が変わる。親分(金子信雄)に預けていた最愛の妹を慰安婦にさせられ、妹は現実から逃れるため麻薬に溺れていたのだ。それを知った時に見せる酒巻の怒りと慟哭は、本作を覆う薄暗さを象徴していた。

 気楽な喜劇と思っていたら、いつの間にか壮絶な反戦映画に。そんな意外性も、このシリーズの魅力だったりする。

喜劇と思ったら反戦映画 戦場に響く極道の絶叫!――春日太一の木曜邦画劇場

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