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連載近田春夫の考えるヒット

「俺が一番だぁ!」の哲学とは真逆……“架空のラッパー”が歌うヒップホップに驚いた――近田春夫の考えるヒット

2020/05/27

Faith』(The Cat's Whiskers)/『光射す方へ』(宮野真守

絵=安斎 肇

 音楽業界も自粛自粛で新譜発売も大変みたいだ。

 そんななか、アニメ、ゲーム関連が比較的落ち着いているようなので、今週はそのあたりで……とは、担当の若者。うちの一枚が、コンセプトなどを理解するのにもなかなか骨の折れる代物だった。「Paradox Live」とは、かいつまんで申せば、エイベックスによる“HIPHOPメディアミックスプロジェクト”のことだそうで、内実は、人気の声優や動画サイトの人気歌い手たちの集合体のようだ。

「HIPHOPカルチャーから新たに誕生した“幻影ライブ”がムーブメントとなった近未来を舞台に、4つのチームが熱狂渦巻く幻影ステージバトルへと身を投じていく」云々、と資料にあるから、おそらく“声優さんがた”は、そういったキャラクターの、声の部分を担当するのだろう。

Faith/The Cat's Whiskers(『Paradox Live Stage Battle“JUSTICE”』収録AVEX)HIPHOPメディアミックスプロジェクトのなかの一枚。

『Faith』は、チームのひとつで“気高き孤高の実力派”が売りの4人組ユニットである、The Cat's Whiskersによるナンバーである。

 てなこととは露知らず、てか資料とかに全然目を通さずに、テキトーに音源の再生を始めたらば、聴こえてきたのは普通の日本語のヒップホップだった。名は知らねど、きっと人気の新人なのだろう。歌詞の語彙の選び方にしろ、また発音/発声にしろ、今、日本でよく耳にする典型的なスタイルだったからだ。そういうものとしては、確かに上手/達者だよね、などと感心もしながら聴いていたのだが、それが、資料に目を通し、このラッパーたちが実は“架空の存在”なのだと知ったときは、俺もちょっとビックリだった。

 というのも、我が国の主流となるヒップホップとは、いってみればなによりも自分であること/ホンモノであることにこだわる人たちの“主体的表現”だと、てっきりそう思い込んでいたからである。それがこのラップときた日にゃ、とどのつまり声の主のやっていることといえば、実在しない“キャラクター”の声の“吹替え”である。あくまで――どう考えてもスポットライトを浴びるのは仮想の空間に生きるみなさんだ――地味な“裏方仕事”ではないか。

 少なくともその意味に於いて「俺が一番だぁ!」という“ヒップホップ的哲学”とは真逆とも思えるスタンス/アプローチから、この“ヒップホップ”は生まれた訳である。

 そう捉えてからもう一度聴き直すと、なるほど例えば、

 ♪ネジが見つかんない

 といった箇所の抑揚のつけ方などなど、明らかに声優のそれだとも気づかされる部分のない訳ではないが、それにしても、この“ヒップホップ的リアリティ”(笑)は大したものといわねばなるまい。

 そこであとは、あくまで好奇心からのお願いになるのだが、是非CDには演者の顔写真を載せて欲しかった。ヘイ。

光射す方へ/宮野真守(King Records)声優、歌手、俳優とマルチに活動を続ける宮野の19枚目シングル。アニメ『あひるの空』ED。

 宮野真守。

 この破綻なき、収まり具合の見事さこそ、アニメ主題歌ならではの“醍醐味”なのかもしれない。

今週のいいとこ探し「コロナコロナの毎日だけど、おかげでベネチアの運河が澄んだりしているそうで、プラス面も知りたいね。オレの町横浜ではラスヴェガスの大手企業が撤退したことでカジノ計画がしぼんできて、計画に反対していたオレも一安心しているよ」と近田春夫氏。「選挙では“白紙”といってた林文子市長はカジノ誘致を諦めてないみたいだけどな!」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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