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築50年、家賃は東京の4分の1…福井の“空き家”に1年住んでわかった「5つのこと」

暮らしの基本はメンテナンスにあり

2020/06/07
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 2018年9月から、ある事情で福井県大野市の空き家を借りて約1年住むことになった。今ではどこの自治体のサイトでも「空き家バンク」などで家を探すことができるが、私の家探しは思いもよらないルートで進んでいった。

 じつは全国の空き家で人に貸し出せる状態のものは全体の半数ほどにしかならないという。大野市ではその割合は半分にもいたらず、500軒以上ある空き家のほとんどが居住不可能な状態か、手付かずのまま持ち主の倉庫になっている。

 私の場合は空き家バンクも不動産業者も通さず、人づてに紹介していただいた家主さんと交渉して、まずは住めるように整えることから始まった。あくまで一事例だが、「人づてに聞く」ことが自分に合った空き家を見つけるために有効な方法だった。そのプロセスも含めて、驚きと発見に満ちた四季折々の空き家暮らしを紹介する。

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窓から「巨石」が見える空き家

 秋晴れで風の気持ちいい日だった。東京から、人類学を専門とする私の調査地となった大野市に引っ越しをしようと家を探し始めた私は、市役所の方の案内でいくつかの空き家を見てまわっていた。大野市には阪谷という地区があり1400人ほどの人びとが住んでいる。市街地から車で15~20分ほどのこの土地には、広範囲に棚田が広がり、中山間地域らしい田園風景が見晴らせた。車窓から見えるのどかな風景が、緊張した身体をほぐす。阪谷はとても美しかった。

阪谷地区に点在する「巨石」

 加えて、この土地には見慣れない光景があった。それが諸説あるが100万年ほど前に起きたといわれている、経ヶ岳の噴火によって各地に点在するようになった「巨石」である。おそらく日本中のどこを見渡しても、このような集落の風景は見ることができないだろう。阪谷地区にはそうした巨石が点在しており、それぞれの土地の所有者が原則その岩も所有しているということになっている。

 ある家では田んぼの真ん中に巨石があり、田植えや稲刈りに工夫が必要だ。また別の家では周囲を囲む塀の一部となっている。人間が生まれる遥か以前からこの土地にある巨石は強烈に印象に残った。他にもいくつかの空き家を紹介していただいたものの、不思議とこの光景に惹かれた私は、居間の窓から岩をのぞむことのできる空き家を借りることにした。