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「逃げ恥」特別編が“再燃” 10歳上の夫と暮らす私が「ムズキュン」より「生活」を選ぶまで

2020/05/26

「土曜の朝カーテンを開けたら、いつもより明るくて、なんでだろうと思って。あ、網戸だ。網戸がきれいなんだって気がついて、すごく気分が良くて。森山さんに家事をお願いしてよかったなって」

 未公開シーンを盛り込んだ「逃げるは恥だが役に立つ」の「ムズキュン!特別編」が話題だ。今夜(5月26日)は第2話が放送されるが、先週19日の第1話放送時には、「逃げ恥」がTwitterの世界トレンド1位を獲得。平均視聴率は11.0%(関東地区)だったというから、3年半前の熱狂再び、といった感じである。

新垣結衣 ©時事通信社

切実な「居場所探し」の物語

「逃げ恥」は、就職市場で必要とされてこなかった森山みくり(新垣結衣)と、恋愛市場で必要とされてこなかった津崎平匡(星野源)たちの、切実な「居場所探し」の物語だ。

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 住む場所と仕事を欲していたみくりと、家事を外注化したい平匡の思惑が合致し、2人は「契約結婚」協定を結ぶ。冒頭に書いた網戸のセリフは、勤め先から派遣切りに遭ったみくりが、家事代行サービスの「従業員」として行った「仕事」を、「雇用主」である平匡が評価したものである。

星野源 ©文藝春秋

 高学歴が足かせとなる歪んだ社会で爪弾きにされたみくりにとって、平匡は、初めて自分の仕事ぶりを認めてくれた人だった。一方で、「プロの独身」を自称し、35年間女性と関係を持ったことがなかった平匡に、人を好きになる喜びを与えたのが、みくりである。

 仕事で必要とされる喜びと、恋愛対象として求められる幸せ。

 互いに足りないものを埋め合い、最後は本物のカップルになったみくりたちは、「雇用主と従業員」から、互いの仕事と家事に責任を負う「共同経営責任者」となり、想像力を働かせながら、ユニークな夫婦のかたちを作り出していく。

 さらに「逃げ恥」は、みくりの伯母で高齢処女の百合(石田ゆり子)、平匡の同僚でゲイの沼田(古田新太)、イケメンゆえに軽く見られてしまう風間(大谷亮平)といった、脇役たちの寄る辺なさにも、最後の最後まで寄り添う。当初はモブキャラに思えた百合の部下・柚にまで、アイデンティティが曖昧になりがちな帰国子女の生きづらさを背負わせ、すみずみまで血の通った脚本に胸が熱くなった。