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元阪神の“タガミ” 異色のYouTuberはなぜウケる?

文春野球コラム Cリーグ2020

2020/06/10

 元プロ野球選手のYouTuberと聞けば、今や珍しくもなくなったが、そこに「元スコアラー」「元アナリスト」の経歴が書き加えられるのなら、ヒットする人物は一気に少なくなる……いや、彼以外、誰もいないのではないか。

全てを一人でこなす元プロ野球選手のYouTuber

「どうも! タガミで~す!」。ハイテンションなあいさつで始まる動画の主役を務めるのは、元阪神タイガースの田上健一氏だ。現在、野球系YouTubeでチャンネル登録数20万人を超える「クニヨシTV」を主戦場に、同50万人超の「トクサンTV」にも携わる。舞台をグラウンドから、こちらも負けず劣らずの“戦場”と化している動画コンテンツ市場に移して、勝負を挑んでいる。

現役時代の田上健一氏 ©文藝春秋

「タガミ」が異色なのは出演だけでなく企画、撮影、編集まですべてを担っていることだ。動画編集ソフトを駆使して、サムネイルのデザインから動作に合わせた効果音など演出面にも細かいこだわりを見せる。完全無欠のYouTuberは「元プロ野球選手で動画編集もできるのは僕だけじゃないですかね(笑)。自分で撮って、自分で編集してアップしてる。今は10分の動画でも、2日ぐらいはかかりますかね。次は自宅の庭にブルペンを作ろうと思って。どうですかね?」と、Zoomを使ったオンライン取材中のその瞬間も新たな企画を練り上げていた。

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 今年2月から番組・動画制作会社「ケイコンテンツ」に入社し、「動画クリエイター」の肩書きを授かる。制作に悪戦苦闘しながらも、自宅の庭にプレートを埋め込みブルペンを作ったり、前触れもなく登場した社会人野球経験者の父親に内野ノックを打ったり、バラエティーに富んだ企画で再生回数は1日5万回超えは珍しくない。タイガースの現役時代に記していた野球ノートの一部を公開するなど、ファンの心をくすぐる方法も心得ている。慣れない「演者」を務めたと思えば、部屋にこもり地味な編集作業に没頭できるのも、純粋な気持ちが1つあるから。「野球界を盛り上げたい」――。ありきたりな言葉の裏には、歩んできた稀有なキャリアが顔を見せる。

 09年育成ドラフト2位で入団し、現役では原口文仁、秋山拓巳らが同期に当たる。1年目から支配下登録を勝ち取ると、俊足を武器に6年間プレーして通算123試合に出場。引退後は16年から2年間、オリックスのスコアラーを務め、18年からはスポーツデータ配信会社「データスタジアム」でアナリストとしてプロ、アマを問わず様々な分析にあたってきた。1つの転機となったのは、引退後に入学した星槎大学(通信制)で体感した知識のアップデート。教員免許の取得が目的だったはずが運動生理学、運動学、バイオメカニクスなどを学んでいくと、消えかかっていたプレーヤーの闘志が再燃していた。

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