『香水』(瑛人)/『抱き寄せ 高まる 君の体温と共に』(WANDS)
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インディーズの配信曲が史上初! 各種チャート1位!と話題騒然(?!)の『香水』だが、そのあたりの社会学的考察などは専門家にお任せするとして、私は楽曲それ自体に着目してみたい。
タイトルから、まず一応イメージなどを膨らませてみた。想像していたのは、媚薬とか誘惑とか、そんなコトバの似合いそうな、どちらかといえば“濃密”でセレブなムードたっぷりな、OL系女子向け(?)の、小洒落た夜のお伽話的jpopだった。
それがところが蓋を開けてみれば、まったくもって予想とは違う世界が待っていた。いってみれば、まさに“モラトリアム感が目一杯に漂う男の子”が主人公の、いわゆる“青春譚”だったのだ。
そういった青臭い“フォークソング的宇宙”にも、重要な小道具として“香水”が登場するあたりが、今の時代なのかもねと……。そんな感想も持った私だったが、それより何より印象の強かったのは、歌詞と旋律の関係であった。
どういうことかといえばこの曲、普段の喋りコトバをまんまメロディにのせた、要するに昔の“字余りフォーク”のような構造なのである。すなわち無理矢理音楽のなかにコトバを押し込めるようなことをしていない。それゆえ歌詞カードを一切見なくとも歌詞が聴き取れる。なのだけれど、メロディには、ちょっと他の人にはない独特なクセのようなものがあって、それが今いった意味での“分かりやすさ”に不思議なアクセントを添えていて、サウンドよりコトバ(日本語)や意味に寄せた作りにもかかわらず、結局、音が妙に耳に残るというのが、新鮮に思えたのだった。
ところで『香水』の歌詞にはDOLCE & GABBANAなる具体的なブランド名が登場する。これはひょっとして紅白歌合戦に出場となった暁などには、どうなるのかね? などと老婆心ながら気を揉んでしまいもするが、もうそんなことはどうでもよろしい! と、ついついいいたくなるほどの衝撃に、私は打ちのめされた。いや、この部分の譜割りというのか、メロディの当て方が、すごい! のである。先の何より印象が強いとの発言も、実はコレ無くしては出なかったろう、多分。
「ドールチェアーンド……」と、字であらわしてみても、ニュアンスはなかなか伝わらないかもしれないが、
♪つーるとかーめが……
ですかね、音程的にも近いのは。とにかく断言出来るのは、一度聞いてしまったら最後。このフレーズから逃れるのは無理だということ。
DOLCE & GABBANAとしても、チャート1位の曲がタダでブランドの香水の宣伝をしてくれるのだからありがたい。ここはひとつ是非とも、♪ドールチェアーンド、で目一杯TVのスポットを打ったらばどうですかね? きっとヤンキーとかの支持が倍増すること、俺請け合いますよ!
WANDS。
これぞ伝統芸の継承を、目の当たりに見る思いである。
今週のアフターパニック「コロナウィルスの緊急事態宣言解除で一息ついた今日この頃。トイレットペーパーからキッチンペーパーまで町で見かけるたびに煽られて買い、部屋に築き上げた紙製品の小山を見るとさ、本当にいまいましい思いがするね……」と近田春夫氏。「お一人様一個までだった近くのドラッグストアは、今日から個数制限解除だって!」
ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。
