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日本中に現れた「自粛警察」 “正義の制裁”が脳科学的に気持ち良いワケ

不倫スキャンダルへのバッシングと同じ現象

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 新型コロナウイルスの感染拡大とともに日本各地に現れた「自粛警察」。緊急事態宣言の下でも営業を続けた店舗や客をバッシングする人々のことだ。

 なぜこうした現象が起きたのか? 脳科学者の中野信子さんと漫画家のヤマザキマリさんの対談(「文藝春秋」7月号「コロナでバレた先進国の『パンツの色』」)は、その背景を分析する。

緊急事態宣言下、パチンコ店に並ぶ人々 ©AFLO

脳は“フリーライダー”を罰したい

中野 私も海外の友人とよく話をするんですが、日本の「自粛」を説明するのは本当に難しい。

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ヤマザキ 「自粛警察」なんて特にね。自治体の自粛要請期間中に、わざわざ開いている店を探し出して市役所に通報したり、「店閉めろ」と張り紙が貼られたりする。ああいう極端な反応は「正義中毒」そのものですよね。そもそも、なぜああいった自粛警察みたいな人々が出てくるのでしょう?

ヤマザキマリ氏  ©文藝春秋

中野 人類は共同体を営む生物ですが、個人は共同体に一定の貢献や犠牲を払い、その代わり共同体から利益を受け取ることで暮らしています。しかし、中には共同体に貢献をせず、利益だけを得て「ただ乗り」する者(フリーライダー)もいます。わかりやすい例が、脱税しているのに社会保障などはしっかりもらっている人とかですね。フリーライダーが増えてしまうと、共同体は成り立たなくなってしまう。そこで人類の脳は、フリーライダーを見つけ、罰することに快感を覚えるようにできているのです。

ヤマザキ なるほど。日本では自粛しない店は「フリーライダー」だと認識されてしまったわけですね。

「正義の制裁」で快楽中枢が刺激される

中野 おそらくそうでしょうね。フリーライダーだと認識した対象に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。この快楽は強烈です。有名人の不倫スキャンダルが報じられるたびにバッシングが横行するのも、人々の脳内にこのシステムが働いているからです。しかも「正義中毒」は共同体が危機に瀕するほど、盛り上がりやすい。