文春オンライン

写真界のレジェンド・森山大道が60年で完成させた「究極のポップ・アート」とは

アートな土曜日

2020/06/27

「進行中」といった意のタイトルを付けて、キャリア60年にも及ぼうという大ベテラン写真家が個展を開いている。カッコいい生き方とはこういうことだ! というのを実地に学ぶつもりで訪れたいのが、東京都写真美術館での「森山大道の東京 ongoing」展。

写真界のレジェンドがつくり上げた刺激的な空間

 森山大道は1960年代に写真表現の世界でデビューした。最初に刊行した写真集『にっぽん劇場写真帖』のころから作風は一貫している。各地の路上でカメラを構え撮影されたスナップショット群は荒々しく、ときには画面が著しくブレたりボケたりしている。「アレ・ブレ・ボケ」の写真などと揶揄されながらも、従来はなかったまったく独自の表現を確立してきた。

「写真とは何か」「写真には何ができるか」をつねに厳しく問い詰めながら創作をするため、スランプに陥ることもあったが、そこはひたすら写真を撮り続けることによって克服。いまや押しも押されもせぬ写真界のレジェンドとして、国内外を問わず高い評価を受けている。

ADVERTISEMENT

『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation

 そんな功成り名を遂げた森山の個展なのだから、回顧展ぽい雰囲気かと思えばまったくそうじゃない。落ち着いて創作活動の佳き思い出を語るつもりなどサラサラないようで、展示空間をいかに刺激的な場に仕立てるかということに森山の思いは集中している様子。

 会場に入るとすぐの場所には、森山作品の代表的イメージのひとつ《三沢の犬》が、大きく引き伸ばされて掛けてある。モノクロで撮られた野良犬の姿、大迫力だ。これは長年にわたり路上をうろついてきた森山大道の自画像という見方もできるだろうか。

 続く壁面には、女性の唇のアップが幾枚も並んでいる。数えてみれば唇の数は108あった。その心は? 意味は? と問うても、答えはそう簡単に見つかりそうにない。ただし、その壁面はひたすらカッコいい。この上なく洗練されたデザインがそこに立ち現れていることはたしかだ。ここは何を考えるでもなく、眼の快楽に身を溺れさせればそれでいいんじゃないか。そんな気がしてくる。

『東京ブギウギ』より 2018年 ©Daido Moriyama Photo Foundation