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“モノノフ”石川柊太 応援する気持ちを知っているからファンの想いを受け取れる

文春野球コラム ペナントレース2020

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 去年は右肘の故障で勝利が無かった石川柊太投手が、7月1日の北海道日本ハム戦(札幌ドーム)で650日振りの白星となる今シーズン初勝利を挙げた。6回無失点10奪三振という素晴らしい成績だった。

 その日のヒーローインタビューがグッときた。

「ファンの皆様に勝利を届けられる事が一番自分の中で嬉しい事。監督、コーチ、トレーナーの皆さんにも勝つ事で恩返し出来るので、感謝感謝の一年にしたい」「無観客ですが心の中でファンの皆様の声援を感じられて応えられた。次回も声援に応えられる様準備していきたい」

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 自分の勝利に歓喜する訳ではなく、ファンへの、またお世話になっている方への感謝の気持ちが前面に溢れ出ていた。

650日振りの白星となる今シーズン初勝利を挙げた石川柊太投手(本人提供)

 いかにも石川投手らしいインタビューだったように感じ、祝福のメッセージと共にさらに深掘りしたくなって彼にLINEを送ってみた。

“応援してくれている人の為に”

――故障明け650日振りの勝利がかかった試合。プレッシャーも凄かったのでは?

「650日振りの勝利というのは、試合後に言われて気づいたので全然気にしてませんでした」

 そんな?! こっちはハラハラしながら久しぶりの公式戦先発マウンドを見ていたのに、本人はそんな事は一切気にしていなかった。

 石川投手はいつも冷静な男なのだ。

――では、そもそもマウンドにはどのような想いで上がったのか?

「マウンドに上がる時はいつも同じ想いで上がるんですが、今シーズン初登板も、初勝利の試合もいつもと変わらず、“応援してくれる人の為”という想いで上がりました」

“応援してくれる人の為”

 自分がどうこうではなく、まず第一に考えるのはファンの事。揺るぎない想いがそこにあるからこそ、ヒーローインタビューでもああいうコメントが自然と出てくるのだろう。

 石川投手は続けてこう話す。

「“応援してくれる人の為”という想いを持って投げた結果勝つことが出来、試合後は沢山の激励のLINE等が届きました。“勇気をもらえた”などの言葉を頂き、今一度自分の戦ってる意味を確認させてもらい、次もまた頑張ろうという気持ちになりました」

 人に勇気を与える事によって自分もまた勇気をもらえる。だからこそ頑張れる。久々の勝ち星が“応援してくれる人の為”という想いを再確認させてくれたと石川投手は言う。

 気を緩める事もなく謙虚さを忘れない真面目な男でありながら、石川投手の中にはふつふつと燃え上がるものがたしかにある。

 いつも冷静に見えて、じつは熱い男なのだ。

“応援してくれている人の為に”

 口先だけではなく心からそう言える。それって簡単な事ではない。特に若い時は「自分が一番だ!」「俺がやってやる」という気持ちになりがちだ。それも大事だと思う。

 だけど、石川投手はいつから“応援してくれる人の為”という想いでマウンドに上がるようになったのか?

「“応援してくれている人の為”、という想いは大学生の時に考えるようになりました。高校の時から、人に負けたくないとか、他の人より頑張ることばかり考えて野球をしていましたが、それが自分の首をしめてとても苦しい思いをしました。そんな時に、大学の監督さんの話の中で“自分の為には限界がある、人の為には限界はない“という言葉を聞かせてもらってから心が楽になり、頑張ることに限界を感じなくなりました」

 創価大学時代の恩師である岸監督が送ってくれた言葉のおかげで石川投手は救われた。監督とは今でも交流があり、石川投手が怪我した時などには心配して連絡をくれ、言葉を送ってくれて気持ちを楽にしてくれる。人生の師匠が限界の壁を取っ払ってくれたのだ。

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