2002年9月18日、緒方純子のめい・緒方花奈ちゃん(仮名、死亡時10)への殺人容疑で、松永太と緒方が再逮捕されたことにより、福岡県警小倉北署に設置されていた捜査本部の看板は、これまでの「北九州市小倉北区内における少女特異監禁等事件捜査本部」から、「小倉北区のマンション内における監禁・殺人等事件捜査本部」へと変更された。
「清美さんの素性が分かるような報道は控えてほしい」
この日、ふたりはそれぞれの留置されている警察署で2時間ほどかけてポリグラフ検査を受けている。ただしそれに対しては、ともに黙秘の姿勢で通したという。
その翌19日、福岡地検小倉支部より、幹事社を通じて「地検より緊急のお願いがあり、集まってもらいたい」との通達があり、記者クラブに所属する記者が午前10時に集められた。そこでは地検の幹部による異例の要請が行われている(一部抜粋)。
地検「今朝、少女の父親の実名が出ました。それで、少女が非常に動揺している。これまでの報道では、清美さん(仮名=広田清美)は未成年ということで、かなり配慮してくれていたのだが、今朝出勤して一番に、動揺していることを聞いた。清美さんの素性が分かるような報道は控えてほしい」
ここで注釈を加えると、花奈ちゃんへの殺人容疑での、松永と緒方の逮捕を伝える19日付朝刊で、新聞一紙が清美さんの父親である広田由紀夫さん(仮名)の実名を掲載したのである。
プライバシーに配慮した報道とは
記者「動揺とは、具体的には?」
地検「具体的には勘弁していただきたいが、事件発生から6カ月あまり、検察と警察は少女と信頼関係があったが、一気に崩れる可能性もある。プライバシーについては引き続き配慮してほしい」
記者「こういうふうに地検がマスコミに要請するのは聞いたことがありません。経緯について具体的に聞きたいのですが。それでなければ判断できません」
地検「今朝、来てすぐに報告を受けただけで、どこからどうということは知らない」
記者「具体的にどう動揺しているのか聞きたいのですが。べつに記事にするつもりはないのですが、きちんと把握できなければ判断できないので」
地検「……『生きていけない』と。今回の捜査に多大な影響が考えられ、もっと大きく言えば、プライバシーに配慮していただきたいのです」
記者「かりに、父親の件で事件となった場合はどうですか? そこらへんはうちの社内でも議論のあるところで……。殺人事件の被害者を匿名にしたままというのは、あまり聞かないですから」
地検「少なくとも、今回に始まった事件ではなく、(めい殺害容疑では)直接の被害者にはなっていない。のちのち(由紀夫さんの事件で)裁判になった場合、(公判で)秘匿できるかどうかは分からないですが、一連の事件の起訴状の被害者はすべてあえて別表にしています。もちろん、裁判所には了解してもらっているし、弁護士にはきちんと示してありますが……」